サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年4月14日号
石川さゆり 歌手
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阿木燿子の艶もたけなわ/247

「津軽海峡・冬景色」「天城越え」などのヒット曲で知られ、NHK紅白歌合戦に計41回の出場経験を持つ国民的歌手・石川さゆりさん。演歌を歌い上げるだけでなく、今年3月には民謡を現代風にアレンジしたアルバムをリリースするなど、既存の音楽ジャンルにとらわれない活動に取り組んでいます。チャレンジ精神はどこからくるのか、伺いました。

◇日本の歌を、次の世代にもきちんと渡せる仕事をしたいなって。

◇今や日本人は日常的に和洋折衷。でも歌のことになるとジャンル分けしたがる。

◇その時、感じた「好き」「格好いい」「心地よい」をそのまま歌いたい。

阿木 先日、久しぶりにさゆりさんのレコーディングに立ち会わせて頂き、さすがにプロだなと感じました。

石川 いえ、この間はせっかく来てくださったのに、その日に歌入れができなくて、ごめんなさい。

阿木 いえ、後日、仕上がりを聴かせて頂きましたが、とても素晴らしい出来で。

石川 石川、頑張りました(笑)。あの日、たくさん人が居らっしゃって、驚きました。

阿木 映画の主題歌だから、映画音楽用のメロディーに詞を載せたので、キーが高かったでしょう?普通は歌手に合わせてキー設定するけど、今回はさゆりさんが曲に歩み寄らなくちゃいけなかった。

石川 そうですね。かなりギリギリでしたね。

阿木 普通、さゆりさんクラスになったら、「キーを少し下げてください」と主張なさってもいいのに。一生懸命、歌われている姿を見て、頭が下がる思いでした。

石川 これはやるしかないなと。だって歌があるんだったら、歌い手は歌わなくちゃいけないと思うんです。

阿木 さすがプロ(笑)。あの時、レコーディングの合間に、おっしゃっていた言葉が印象的だったんです。「やりたいことが年々、増えていく」って。

石川 デビューして今年で47年になるんですけど、こんなに長い間、歌わせて頂いていることに感謝しなければいけないと思うんです。ならば日本の歌を、次の世代にもきちんと渡せる仕事をしたいなって。

阿木 それが「民~Tami~」というアルバムになったんですね。私、これを聴いて、ぶっ飛びました(笑)。今まで抱いていた「民謡」のイメージが、完全に吹き飛んでしまいましたね。

石川 今回のアルバムは、才能豊かなミュージシャンや、アレンジャーの方々が参加してくださった。そのおかげです。

阿木 そう、アレンジが凄(すご)く斬新。この企画のコンセプトは、さゆりさんご自身で考えられたんですか?

石川 そうですね。30年ちょっと前に「童~WARASHI~」というアルバムを作ったんです。「日本には、こんな素晴らしい子供のための歌があるんですよ」ということを、世界中の人に知ってほしくって。私たちの先祖から脈々と流れている暮らしぶりや、精神性みたいなものを、私なりにまとめられたらいいなと思いました。それが、企画を考えたそもそものきっかけなんです。

阿木 この「民」は、その「童」の民謡版?

石川 そうですね。「童」は童謡を集めて歌ったのですが、今回は民謡です。日本各地にある労働の歌、祭り歌、寿(ことほ)ぐ歌、まさに日本の暮らし、民衆の声という意味で「民」と名付けました。

阿木 タイトルがとても新鮮。字で見ただけでも、シンプルでイメージを湧かせやすい。

石川 民謡というと、若い人は「そんな年寄りくさい音楽は勘弁」となっちゃうでしょうか(笑)。

阿木 だから「民」ね(笑)。意表を突くアレンジが多くて、聴いていて飽きない。アルバム最後の曲「島原の子守唄」は、ヨーロッパの映画音楽風だったりして。

石川 あの歌はまず、音楽アレンジの菅野よう子さんとの打ち合わせで、「島原の土地、風土って......」というところから入ったんです。隠れキリシタンが居たことや、子守の娘さん達が外国船に乗せられて、売られていく話を知り、あのアレンジが生まれました。

阿木 途中でミサ曲みたいになるでしょう?「島原の子守唄」と、ミサ曲が合体するなんて思ってもみなくて。今、さゆりさんから時代背景を考慮してのことだ、とお聞きして、うーん、深いなと(笑)。

石川 嬉(うれ)しい。そう、深いでしょう(笑)。あと私が面白いなと思ったのは「刈干切唄(かりぼしきりうた)」。この唄は尺八の伴奏で歌われることが多くて、出だしの"ここの山の"というのが凄く長いんです。前から何でこんなに伸ばすんだろうと思っていたんですけど、この曲、鎌で草を刈る時の作業歌なんですって。ご存じでした?

阿木 いいえ。なるほど、日本版ワークソングね。

石川 短い草を刈る時は鎌も短めで、テンポも速い。背の高い草は大鎌を使うので、ゆっくりしたテンポじゃないと、振り回せない。

阿木 そういうことを知ると、民謡の聴き方が違ってきますよね。

石川 そうでしょう? 「日本人のその時の暮らしが、音楽から聞こえたらいいですね」なんて話し合っていたんです。

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