サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年2月24日号
友近 お笑い芸人
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阿木燿子の艶もたけなわ/240

ディテールにこだわった一人コントで人気を博している芸人、友近さん。演歌歌手「水谷千重子」は、独立したキャラクターとしてCD発売やコンサートをするまでになりました。そんな友近さんの足跡をたどっていくと、妥協を許すことなく、正面からお笑いの世界を突き詰めていく、いちずな素顔が見えてきました。お楽しみください。

◇明治座の「水谷千重子公演」はある意味、紅白に出させて頂くよりも大きなこと。

◇江原啓之さんに前世は"置き屋の女将"と言われて、ご自分で腑に落ちられたとか?

◇五社英雄さんの映画「吉原炎上」を観た時、懐かしく感じたんです。

阿木 この2月に友近さんは、明治座で演歌歌手「水谷千重子」として、公演をなさるんですよね。

友近 デビュー「50周年記念公演」と銘打って、やらせてもらいます。

阿木 お笑いの世界は多芸な方が少なくないですが、それにしても友近さんの歌唱力は半端じゃない。それで、演歌歌手「水谷千重子」が、キャラクターとして確立した感じですが、今日はこの場に、友近さんとして来てくださっているんですよね(笑)。

友近 もちろんです(笑)。

阿木 それにしても前代未聞ですね。多重人格みたいに、違うキャラクターでもお仕事をなさっているなんて。水谷さんは、自然発生的に"生まれちゃった"感じですか?

友近 最初は意図的に演じていたんですけど、続けていくうちに思いの外、お客さんが面白がってくださって。それで、だんだん定着していったという。

阿木 私も作詞家をしていて、時々思うのですが、自然発生的に生まれ育って、気が付いたら養子や養女にもらわれていった、みたいな作品があるんです。友近さんにおける「水谷千重子」も、それに近いのかなって。

友近 確かに。水谷千重子としてやり始めて7年目なんですけど、デビュー50周年になるんです。なんだか犬の年の取り方と同じかな。

阿木 ここで面白いのは、水谷千重子さんは友近さんより、かなり年が上なんですよね。

友近 最初、年齢不詳でいこうと思ったんです。水谷千重子が言いそうなこととか、振る舞いとかを考えると、どうも30代や40代じゃないな、50代でも違うし、もっと上やなということになって。

阿木 ということは60代?

友近 そうですね。60代半ばくらいでしょうか。ということは子役でデビューして、50周年記念という計算になるんです。

阿木 細かいディテールが面白いですね。未婚で独身、犬を4匹飼っていて、福井県出身とかね。俳優さんで実際いらっしゃるけど、詳細な履歴書を書いて役作りをなさる方、それに近い感じですね。

友近 一応こういうキャリアで、誰と同期かとかね。紫綬褒章はもらっているな、なんて(笑)。

阿木 でも、どうせならもう少し欲張って文化勲章とか?(笑)。

友近 そこまでいきたいですね(笑)。

阿木 ということは、友近さんのキャリアアップと共に水谷さんも上がっていく。これって、本当に面白い仕組みですね。今度の明治座は、お客様は友近さんではなく、水谷千重子を観に来てくださる。

友近 それも「私、50年、応援してきました」みたいな顔をして来てくださるんです。

阿木 じゃ、言葉は悪いけれど、お客様と共犯関係で、一緒に虚構の世界を生きてる感じですね。

友近 凄(すご)く不思議なんです。最初はほとんどのお客さんは、友近のコントのファンだったんです。それが最近は70~80代くらいの方も増えてきていて。多分、意味が分かっていない方も居ると思うんです。本当に水谷千重子という演歌歌手が存在していると思っているのかもしれないなと。

阿木 えぇ? 本当に! そこまでお客様を騙(だま)せれば立派です(笑)。

友近 親子で来てくださる方も多くて。50代くらいの娘さんが、70~80代のお母さんに説明していたり。

阿木 本当に魔訶(まか)不思議な世界!現実に友近さんが歌うのだから、バーチャルではないし。でも、水谷千重子は友近さんの中にしか存在しないわけだし。

友近 最近はコンサートで「感動しました」とか「泣きました」とか言って頂くんですが、最初のスタートはお笑いだったにしろ、「歌もしっかり歌い、ちゃんとお芝居もして、やるじゃん、水谷」みたいに、自分でもちょっと感心してるんです(笑)。

阿木 この形が成立していること自体、かなりスペシャルですけど、持続しているところが、またお見事というか。

友近 そうですよね。続けるのは私も怖かったんです。でも、年々お客様が増えているので、やってこられました。

阿木 友近さんは小学校の卒業文集で「26歳で吉本(興業)に入りたい」とお書きになったとか?

友近 結果、その通りになりました。

阿木 予言というか、特殊な能力がお有りなのかと(笑)。

友近 いえ、霊感めいたものは、まったくないんです。ただ、「この人はこういう人なのかな」みたいなものは分かる気がするんです。

阿木 「この人はこれからブレークするぞ」とか?

友近 そうですね、何となく。

阿木 「駄目になるぞ」というのは?

友近 それは一応、無いということで(笑)。でも、「この人は玄人受けするな」とか、「こういう人に見てもらったら、早くデビューできるな」というのは、何となく。

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