サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年2月 3日号
阿川佐和子 作家・エッセイスト
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阿木燿子の艶もたけなわ/237

テレビのトークバラエティー番組では絶妙なツッコミを入れて進行を務め、エッセー本を出せばミリオンセラーを記録。マルチな才能で人気の阿川佐和子さん。『週刊文春』の対談「阿川佐和子のこの人に会いたい」は25年以上続く"長寿企画"です。そこで、"対談の秘訣"から父・阿川弘之さんの思い出など盛りだくさんにお届けします。

◇読者の持っているゲストのイメージをいい意味で裏切ることが大事だと思う。

◇物書きになろうとか、司会を生業にしようとかいう気は全くなくて?

◇父が物書きだったから、逆に絶対、私は物書きにだけはなりたくなかったんです。

阿川 週刊誌の連載って、大変でしょう?

阿木 本当に。私はやらせて頂いてまだ5年ですけど、阿川さんは『週刊文春』の対談を担当して、20年はとっくに超えていらっしゃるでしょう?

阿川 私、26年だと思っていたら、25年だと言われて、あらまって。

阿木 それって凄(すご)い数字ですよね。それにしても、数字にはかなり大雑把(ざっぱ)。

阿川 まあ、だいたい四半世紀ということで(笑)。

阿木 私、黒柳徹子さんって、凄い人だなと思っていて。テレビの創成期から活躍なさり、「徹子の部屋」は43年。テレビ以外にも『窓ぎわのトットちゃん』は累計800万部という空前のベストセラー。他にも舞台を長年続けられ、加えてユニセフの親善大使でしょう。本当にその振り幅といい、持続性といい、見事だなと。で、黒柳さん的な凄さが、阿川さんにもお有りになるの。

阿川 冗談じゃありません!

阿木 ご自分では気付いていらっしゃらないかもしれないけど、凄いんです、阿川さん。

阿川 私、ちっこい仕事も多いんですよ。何でこんな、と思うことも度々で。人様の本の帯文の話が次々来て。ある本に「げ、私の『看る力』より売れてるぞ」って書いたら、「それ採用させてください」って。私のより売れてる本の帯を、何で私が書かなくちゃいけないんだって(笑)。

阿木 そういうことも含めて、どうやって頭を切り替えていらっしゃるのか知りたくて。だって、文春の対談以外にも、テレビの対談番組「サワコの朝」や、「ビートたけしのTVタックル」などレギュラーを持っていらっしゃる上に、エッセー集も数多く出されていて、『聞く力』は170万部超のベストセラー。

阿川 私、学習能力がないんです。要は短期記憶力と短期集中力で、綱渡りみたいにやってきたというか。誰かと対談しても、終わった直後は感動するんです。阿木さんからお話を伺った時も、詞を作る時は、"飛び"が大事だって。起承転結じゃなく、起からいきなり結に行く、そこに面白みがあるってお話に、なるほどと思って。

阿木 記憶力、いいじゃないですか(笑)。

阿川 さっき読み返してきたから(笑)。ただ次の人に会うと、またその人の話に感動して、頭の中が上書き状態になる。

阿木 レギュラーを持っていると、渡辺淳一さんじゃないけど、多少の"鈍感力"もないと。

阿川 まぁ、それはありますよね。「切り替える力」?(笑)。毎日、ホント、綱渡り状態ですよ。だから、今日なんか凄く気楽なんです。阿木さんから話を聞いて頂いて、楽しくお喋(しゃべ)りができればいいので。

阿木 私、最初に対談のホステスのお話を頂いた時、自分が無知でモノを知らないから、そんな大役務まるかなと凄く不安で。

阿川 私も全く、知りません(笑)。

阿木 対談の相手って、職業がいろいろですよね。芸能人はもちろんですけど、スポーツ選手が居たり、経済学者が居たり、介護のプロが居たり。阿川さんが文春のお話を引き受けられた時、夢の中に(アーノルド・)シュワルツェネッガーが出てきたとか?

阿川 引き受けはしたけど、あまりの重圧に金縛りに遭って。「動けない、どうしよう」と思った時、「重い!」って。私の上に男の人が乗っている感じなんだけど、全然ラブな雰囲気じゃなくて、ただひたすら重いだけで。「どいて」と言って顔を見たら、シュワちゃんだった(笑)。それくらい、始まるまでひたすら怖くて重かった。

阿木 最初のゲストは藤田紀子さん。元貴乃花親方のお母さんですよね。

阿川 そう。次に曙関(当時)と朝日新聞の社長さんが続いたの。

阿木 タイプも年齢も違い過ぎて、それ、大変そう。それに、お相撲さんって、口が重いでしょう?

阿川 私、お相撲のこと、本当に知らないから、ガチガチになって。でも、曙関はサービス精神旺盛で、写真を撮る時、大きな片手で私の顔を隠したんです。だから、私の顔が隠れた写真が載った(笑)。対談中は結構、からかわれてたらしいんですが、こちらは全く余裕がなくて。でも今思えば、優しい人でした。

阿木 25年続けてこられても、今でもドキドキなさるって?

阿川 今日は大丈夫だろうと思っていると、失敗する確率が高いんです。油断するから。

阿木 失敗って、上手(うま)く話を引き出せなかったとか?

阿川 この人なら引き出しをいっぱい持っているから、いろいろ話してくださるに違いないって思った時ほど失敗する。例えば芸人さんとかだったら、安心っぽいでしょう?

阿木 そうね。お喋りのプロだし。

阿川 お話をしていると楽しいから、ゲラゲラ笑っているうちに時間が過ぎちゃって。それで読者を置いてきぼりにしてしまうことがときどきあるんです。それってインタビュアーとしては、一番やってはいけないことで。私は読者との間に立って、橋渡しとして面白い読み物にしなくてはいけない立場なのに、当事者だけが楽しそう、というものになっちゃう。

阿木 読者にすれば「何だ?」。

阿川 そう、内容があまり堅くなってもいけないけど、読者の持っているゲストのイメージをいい意味で裏切るというか。チャラチャラしてそうな人が凄く真面目だったり、何の苦労もなさそうな人が、逆に幼少期凄く辛(つら)い経験をしてたり。そういう一面を見ると読者は「あ、思い違いしてたわ、この人、いい人じゃない」となる。そういうことが大事だと思うんです。

阿木 ゲストの一番チャーミングなところに迫りたいと思うのは、私も一緒で。あと、私の場合、体温かな。その人の口調とか、温かみみたいなものが伝わるといいなと思ってやってる感じですね。

阿川 それはそうですよね。

阿木 人との接し方とか、モノの考え方って、親の影響って大きいと思うんですけど、阿川さんと私、その辺は多少、似ているかなと。父親は頑固で意固地、母親は根アカで従順なタイプ。

阿川 お父様、怖かったんですか?

阿木 母には強かったけど、娘には甘かった。

阿川 全然、ウチと違うけど。

阿木 照れもあったんだと思うんですけど、本当に凄い亭主関白で。ただ、父は本当は母を愛していたんじゃないかと。

阿川 そこもどうかな?

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