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2024年9月 1日号
パリ五輪・レスリング金8個 歴史的快挙の裏に親や大学の存在
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 パリ・オリンピックで、日本の金メダル20個中、8個をレスリングが占めた。1964年の東京五輪(レスリングは男子のみ)で獲得した5個を大幅に上回る歴史的な快挙だ。

 パリ五輪では、出場した男女計13階級中9階級で決勝に進み、敗れたのは1人だけ。金は男女4個ずつで、近年、女子ばかりが目立った競技で男子が巻き返した。

 この快挙を牽引(けんいん)したのは、東京五輪で「銀に泣いた」グレコローマンスタイル60㌔級の文田健一郎である。準決勝で見せた「反り投げ」は大逆転勝利の鍵となり、チームに大きな勢いをもたらした。グレコ77㌔級で優勝した日下尚(くさかなお)はマットで宙返りする無類の足腰の強さや、中学時代の相撲で鍛えた「押し」も生かした。グレコでの1大会2個の金メダルは、64年東京五輪以来60年ぶりだ。

 メキシコ五輪(68年)銀メダリストの藤本英男・日本体育大名誉教授は「上体しか使えないグレコは柔道がある日本人には向いていますが、中学や高校総体ではグレコの大会がなく、みんなフリースタイルに転向した。文田君や日下君が新しい歴史をつくるはず」と喜んだ。

 日本のレスリング界がこのような成果を上げられた背景には、大学や指導者の貢献が大きい。あるレスリング関係者はこう語る。

「パリの男子の金メダリストはすべて日体大出身。日本レスリング協会の予算が大幅削減され、自腹で海外遠征に行く選手を支援するなど、大学の存在は大きかった。ただ男子は強豪国ロシアの不在に助けられた面もあります」

 女子は、自分のことを「かわいい」とアピールできる性格の鏡優翔(ゆうか)が最重量級で日本初の金メダルの金字塔。53㌔級の藤波朱理(あかり)は下馬評通り圧巻の強さで優勝した。父俊一さんは三重県の高校教員でレスリング部監督だったが、藤波が入学した日体大のコーチとして東京でともに暮らし、二人三脚で闘った。春には名門、至学館大の合宿に参加させ、「名伯楽」栄和人監督の指導も受けさせるなど、糧になるものは貪欲に娘に吸収させた。

 50㌔級の須﨑優衣(すさきゆい)は連覇の期待が重荷だったのだろうか。動きが硬かったが、それでも銅メダルを獲得した。

 実はパリ五輪代表の女子6人中5人が、父親が元レスラーの指導者。女子57㌔級の覇者・櫻井つぐみの父優史さんは、高知県で娘はもちろん、男子フリースタイル65㌔級で優勝した清岡幸大郎も育てた。

 日本レスリング協会には、世界選手権のメダリストの親が元レスラーの場合に「ペアレント賞」として親子を称(たた)える珍しい表彰がある。すそ野が狭いことの証しだが、そんなレスリングが最高の舞台でここまで活躍できたのは、協会に頼らない所属先や出身校、親たちの努力の賜物(たまもの)だった。

(粟野仁雄)

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