昨年7月末、惜しまれつつ幕を閉じた名古屋市千種区のミニシアター「名古屋シネマテーク」。その元スタッフらが同じ場所で新たなミニシアターを3月、始動させる。改装資金をクラウドファンディング(CF)で募ったところ、ほぼ2日間で目標額の1000万円に達したのだ。
「ナゴヤキネマ・ノイ」と名付けられた新映画館の準備が進むのは、名古屋の中心繁華街・栄から地下鉄で5分の今池。飲食店やライブハウス、新・古書店、小さな出版社、ギャラリー、劇団事務所が混在する街の雑居ビルだ。
この街で名古屋シネマテークは1982年から41年間、さまざまな国の優れた作品や無名の新人監督の作品、良質なドキュメンタリーなどを上映してきた。今回の再出発を決意させたのも、この街の人たちの後押しの声だという。
市内では昨年3月、ミニシアターとしてともに歩んできた「名演小劇場」が休館。シネマテークがあった千種区では、老舗書店「ちくさ正文館書店」も7月、60年余りの歴史を終えた。
そんな寂しいニュースが続く中での挑戦に映画人やファンも応えた。歌手で俳優の小泉今日子さんや濱口竜介監督ら約130人がCFの呼びかけ人となり、バリアフリー化、オンライン予約システムの導入、デジタル映写機の買い替えなどのために資金を募り、その額は今年1月末までに2700万円を超えた。
共同代表の永吉直之さん(56)は「名古屋は(名古屋駅西のミニシアター)シネマスコーレさん、名演(小劇場)さんと分け合って膨大な本数をやっていたんですけど、映画館がなくなると見られなくなる作品が出てきてしまう」と再起の動機を述べる。一方「朝から夜までギッシリやっていたんですけど、お客さんの負担が大きいし、我々にも無理が出ていたので、定休日を設けようかなと思っているんです」と持続可能なあり方も模索している。
今池のライブハウスで1月23日に開かれたイベントでは、永吉さんら「キネマ・ノイ」と、41年間営業を続けている「シネマスコーレ」のスタッフが初めて一堂に会した。そして、「若い観客を増やすにはどうするかっていうことをずっと考え続けている。若い方の顔はみんな覚えてます」などと共通の悩みを語り合い、「絶滅危惧種」同士の共闘を誓い合った。
全国のミニシアターなどで作るコミュニティシネマセンター(東京)が発行した「映画上映活動年鑑2022」によると、コロナ禍により閉館する映画館が増えるのではないかと懸念された。だが、2020〜22年の3年間の閉館は、シネマコンプレックスが11に対し、それ以外が19で極端に減っているわけではないという。岩崎ゆう子事務局長は「入場料収入だけで運営できる状況にはなく、シネコン運営で大きな部分を占めるコンセッション(売店)収入が期待できないミニシアターは、収入をどう確保していくかは大きな課題です」と指摘する。
オープニング上映作品には、地元・東海テレビ放送製作の「その鼓動に耳をあてよ」を予定している。
(井澤宏明)