第96回選抜高校野球(3月18日開幕、阪神甲子園球場)に、何とペリー来航の直前に創設された高校が選ばれた。醬油(しょうゆ)の発祥地としても知られる和歌山県湯浅町(人口約1万1000人)の和歌山県立耐久高校である。
学校は、幕末の国際情勢に対応する人材を育成しようと1852(嘉永5)年に開設された「稽古(けいこ)場」が起源。江戸幕府12代将軍の徳川家慶の治世で、翌年に米国のペリー提督が来航する。66(慶応2)年には、その永続の願いを込めて「耐久社」と改称し、さらに耐久学舎、耐久中学校をへて1948年、戦後の学制改革で県立有田高等女学校と統合して耐久高校となった。野球部は1905(明治38)年の創部で、今年で120年目となる。
とはいえ、尾藤公監督(2011年死去)が率いて1979年に史上3校目の春夏連覇も含め、甲子園で計4回優勝(センバツ3、選手権1)を誇る箕島、さらには甲子園を4回(センバツ1、選手権3)制した智弁和歌山と、高校野球で全国有数の強豪が存在する和歌山。耐久にとって甲子園は遠かった。
和歌山大会も4強が最高で昨夏は1回戦で敗退した。それがエース、冷水(しみず)孝輔らで結成された新チームがベンチ入り19人ながらもあれよ、あれよと躍進。秋の県大会で初優勝し、近畿大会も4強入り。準決勝で京都外大西に0―1で惜敗したが、大阪桐蔭や報徳学園(兵庫)など強豪が居並ぶ近畿地区で2勝し、今春センバツの出場校に選ばれた。
1月26日に朗報が届くと、ナインらは井原正善監督を胴上げ、赤山侑斗(ゆうと)主将は「どんな相手にも勝てるようにしたい」と意気込んだ。戸川しをり校長は「近隣の子ばかりなのによくやってくれました。先輩や周囲の人に感謝して過疎の町に元気を与えてほしい」と喜ぶ。前山友佑部長は「突然強くなったのではなく、投手力なら冷水君の兄がいた3年前の方が上だったのでは。特別なスターもいないので全員野球で頑張ってほしい」と期待を込める。
年末には野球部OBの東尾庄治さんの兄で、プロ野球の西武のエースとして活躍し、監督も務めた東尾修さん(73)=箕島出身=が指導に来てくれた。急きょ作られた特別後援会の事務局長を務める庄治さんは、「生きている間に甲子園出場が叶(かな)うとは」と驚いているという。
2020年春、湯浅町では町内の病院で国内初の新型コロナウイルスの院内感染が起きて大きなニュースになった。筆者も同町を取材。車での帰路、懐かしい箕島(有田市)には寄ったが、失礼ながら耐久は名も知らず、日本有数の歴史を持つ同校を今回初めて知った。
センバツには能登半島地震があった石川県から星稜と日本航空石川も出場する。特に日本航空石川は被害の大きかった輪島市にあり、現在は系列の日本航空高がある山梨県で練習を積んでいる。
初出場の耐久も、その校名に違(たが)わず、容易には負けない「耐久野球」を見せてくれることが楽しみだ。
(粟野仁雄)