東京体育館(東京都渋谷区)で12月2、3日に開かれた柔道の国際大会・グランドスラム東京大会。野村忠宏が五輪3連覇の偉業を成し遂げた男子60㌔級は3日、五輪連覇を狙った高藤直寿(30)と永山竜樹(りゅうじゅ)(27)が決勝に進んだ。事実上、来年のパリ五輪の同級代表を決める一戦は、両者ポイントがないままゴールデンスコア方式の延長戦にもつれ込んだ。そして、永山は開始23秒、高藤に一本背負いを決めて一本勝ちし、パリ代表に内定した。
2021年の東京五輪からの連覇と、銅メダルを獲得した16年リオデジャネイロ五輪からの3大会連続出場の夢が消えた高藤。「勝負師」とも称されるが、試合後は永山を抱き寄せて頭をなでて笑顔を見せた。高藤にとって永山は東海大の3年後輩。永山自身は先輩の〝祝福〟に「ぐっときた」と振り返った。
永山は北海道美唄市生まれ。4歳で柔道を始め、愛知・大成高から東海大へ入り、1年生で15年世界ジュニア選手権に優勝した。翌16年にはグランドスラム大会で初優勝し、18年には2大会を制した。背負い投げや袖釣り込み腰を武器に、高藤に対しても重要な大会で互角に渡り合ってきた。
しかし、こと五輪が絡むと高藤が勝負強さを発揮した。東京五輪の代表争いの正念場だった19年グランドスラム大阪では、永山は決勝で高藤に敗れ、結果的に東京の代表を逃していた。
「苦しかった時期が長かった。やっとここまで来られた。オリンピックは小さい時からの目標の舞台。日本代表の誇りをもって畳に上がり、自分らしい柔道をして金メダルを取りにいきたい」と永山。先輩が相手だったためか、喜びは控えめだ。ただ、昨年はグランドスラムのパリ、ウランバートル両大会に加え、アジア選手権でも優勝。今年はグランドスラムのウランバートル大会でも優勝、8月にブダペストで開かれた世界ランキング上位で争うマスターズ大会でも高藤が3位だったのに対して永山は優勝。今や押しも押されもせぬ日本柔道界の実力者として成長してきた。
対して、高藤は決勝後「あれこそ頂上決戦。最後に(永山と)直接できてよかった」と振り返った。敗れたが、この大会で最も会場を沸かせたのは高藤でもあった。特に準々決勝のイタリア選手との一戦。高藤は技ありを取られたまま終盤に入り、絶体絶命と思われた終了5秒前、高藤が相手を投げて審判が一本勝ちを宣告した。場内は沸いたが、「技あり」に訂正されて延長戦に突入。延長開始35秒に相手が大外刈りに来たところをかわし、浮き落としを放つと文句なしの一本勝ち。「今度こそ」の大歓声となった。
「僕の時代は終わった」と引退をほのめかすような言葉も出た高藤。しかし、しぶとい柔道はまだまだファンを魅了するはず。畳から降りるのは早い。実力者同士がすがすがしい戦いを見せた決勝だった。
(粟野仁雄)