9月24日に閉幕したレスリングの世界選手権(ベオグラード)の男子グレコローマン60㌔級で、2021年の東京五輪銀メダリストの文田健一郎(27)=ミキハウス=が銀メダルを獲得した。キルギス選手との決勝は、いきなり横へ投げられるなど0―4と先行された。文田も3―4と迫って得意の「そり投げ」を3度決めたが、投げても大きな得点につながらない。そして、加点を許して最終的には6―11で敗れた。
「最近は警戒されていたのに、彼は好戦的で攻めてきてのまれた。ここまでがっぷり四つに来る相手は久々でびっくりした。4点が取れるそり投げをしなきゃ」などと反省した。
ただ、前日の準決勝でアルメニア選手を破り、日本レスリング協会の代表選考基準に従ってパリ五輪代表を決めると、「ウォーッ」と叫び声を上げた。
「くれたチャンスを絶対に無駄にしないようにしようと思った。父親と妻の2人を、胸張ってパリの試合会場に連れていけるのがすごくうれしい」とパリ代表の喜びも語った文田。「去年は(世界選手権3位で)悔しい思いをした。でも、世界のレスリングがこうなら勝つために何をしたらいいかを考えた」と、今後も大技に頼らないレスリングに徹すると強調していた。
山梨県韮崎市出身。父敏郎さんが監督を務める韮崎工業高から日体大へ進んだ。立ち姿勢で後ろに反り返って手が床に着くほどの柔軟な肉体を生かした豪快な「そり投げ」が伝家の宝刀だ。猫好きでも知られ、「猫男」「ニャンコレスラー」などの愛称もある。
五輪初出場の21年の東京はキューバ選手に判定で敗れて銀メダルだった。19年のカザフスタンでの世界選手権は優勝して東京五輪代表を決めたが、日体大の先輩で16年リオデジャネイロ五輪の銀メダリストだった太田忍さんとし烈な代表争いを繰り広げ、「忍先輩が、忍先輩が......」と涙顔で語っていたのが印象的だ。
その太田さんは東京五輪を逃すと、総合格闘家に転身した。文田に、そんな先輩へのメッセージを聞くと「先輩が頑張っていると頑張んなくちゃと思う。道は違えどライバルです」と笑顔を見せる。
全身を攻めていいフリーに対し、グレコローマンは腰から下を攻めてはならない。そして、文田は「父に習った投げ技こそがグレコの魅力」と言ってきた。ただ、今は「1点差でも勝ちは勝ち」の原点に返る。
「決勝の舞台に上げてくれた新しいスタイルを大事にして、誰に対しても貫ける選手になりたい。この2年はアップダウンがあったが、もう1年もない。世界の舞台での金はパリで」と前を見据えた。
日本のグレコ勢の五輪金メダルは1984年ロサンゼルスの52㌔級・宮原厚次が最後だ。パリで文田が優勝すれば40年ぶりの快挙。花の都で「猫男」が日本グレコ勢の悲願に挑む。
(粟野仁雄)