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2023年8月13日号
スポーツ 女子野球で「伝統の一戦」実現 甲子園で阪神と巨人が初対決
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「伝統の一戦」といっても初対決。7月22日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で「阪神タイガースWomen―読売ジャイアンツ女子」の初戦が行われた。チケットはネット裏が1500円や1000円で、内野席は無料開放された。3431人が観戦、両チームの応援団も盛り上げた。

 試合は巨人が小野寺佳奈の2安打完封で、5―0と完勝した。阪神は坂東瑞紀ら4人が継投したが9安打を浴び、相手の巧みな走塁にも翻弄された。巨人の金満梨々那主将は「ジャイアンツらしい野球が全て出たので百点満点」と言えば、阪神の三浦伊織主将は「タイガースらしく攻撃できず、悔しい」と話した。

 阪神の〝本家〟では使えない永久欠番も登場した。往年の大エース、村山実の「11」を石村奈々投手、初代「ミスタータイガース」こと、藤村富美男の「10」は藤本莉央内野手がつけた。阪神Womenが21年に始まったのに対し、ジャイアンツ女子は23年に本格的に始動。他には20年発足の西武の女子チーム「埼玉西武ライオンズ・レディース」があるが、今回は練習試合という形で「伝統の一戦」が実現した。

 両チームともプロ球団が運営する女子の硬式野球のクラブチームで、プロではない。チームとしては、阪神は関西のリーグで、学生や企業のチームと戦っている。巨人も企業やクラブ、学生のチームによる「プレミアヴィーナスリーグ」に今季から単独チームとして参戦している。

 選手は日ごろは別の仕事を持ちながら、練習に取り組む。ただ、プロ傘下ということで、プロの練習施設が空いている時は、雨天練習場やバッティングマシンが使えるなど環境面で恵まれている点はある。プロ球団は2005年から小学5、6年を中心とした各球団ジュニアチームによる大会「NPB12球団ジュニアトーナメント」を開催しており、子ども向けのアカデミーなども設けている。ここで女子選手たちが指導する際は球団から報酬が支払われる。小野寺は「女子野球をやる子どもたちの目指す場所になれば」と話す。

 女子野球を巡っては、10年に開幕した女子プロ野球リーグが21年末で無期限休止となった。今回の試合でも、女子プロ野球出身者が多くいる。一方、全国高校女子硬式野球選手権は今夏も含め、3年連続で決勝を甲子園で実施。金満が中学時代に所属していた女子硬式野球の「オール京急」(横浜市)の伊藤始弘(ともひろ)総監督は「関西を中心に女子野球部のある高校が増えてきた」。その言葉通り、今夏の高校選手権の参加チームは2年前の40から58に増えた。

 ただ、阪神―巨人戦を取材して、投てき力の男女差は実感した。伊藤氏は「遠投が駄目でも30㍍や40㍍を速く正確な球を投げられればいい。ただ、女子の飛距離は90㍍がやっと。甲子園や東京ドームでのホームランは難しい」。なら甲子園のラッキーゾーンなど工夫してもいいのではないか。

 筆者の息子がいた神戸市の少年野球チームで、最強打者は女の子だった。小学生から中学生にかけては、女子のほうが体の成長が早く、少年野球に接した人には「あるある話」だろう。ただ、そこで培った女子の野球への自信を将来にもつなげるすべはないか。その一端を見た「伝統の一戦」だった。

(粟野仁雄)

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