牧太郎の青い空白い雲/981
東京都台東区の妙泉寺に貧乏神の頭に猿が乗った〝変ちきりんな石像〟がある。貧乏神をこらしめると言われる「お猿さん」は、四天王の一人「毘沙門天(びしゃもんてん)」の化身。石像の前で手を合わせ、まずは貧乏神を撫(な)でる。そして猿を撫でる。
そうすれば何人も貧乏から救われる。「貧乏が去る(猿)像」である。由緒ある「江戸のもの」と思っていたが、これは勘違い。この石像は2003(平成15)年10月14日に安置されている。
そう言えば......。この頃、日本は「貧乏」だった。
『毎日新聞』に「親の貧困より子どもの貧困が問題だ!」という記事を書いたような記憶がある。病気ではなく、経済的理由で30日以上欠席した「不登校」の子どもは小・中合わせて約12万人。「子どもの貧困」が話題になった。
こんな時、「貧乏が去る(猿)像」ができた。
あれから20年以上経(た)っても「日本国の貧乏」は続き、ここ数年は「子どもの貧困」に加え「高齢者の貧困」が話題になっている。
「エンゲル係数」をご存じか? 家計の消費支出全体に占める食料費支出の割合を示すものだ。昨年は28・3%(2人以上世帯)。1981年以来の高水準を記録。身近な食べ物が異常に値上がりしている。キャベツは普通の3倍になり、ハクサイも2倍......コメは5㌔で4000から5000円......。エンゲル係数が高くなるのは当然だ。
最近、「年金暮らし」の年寄りが「一日一食」に追い込まれている!と聞かされた。同い歳(80歳)の友人に聞いてみると、毎月15万円の年金受給額だけで暮らすのは至難の業。家賃、光熱費、社会保険料、医療や介護の自己負担分などを差し引くと手許(てもと)に残るのが1万円弱。満足な食事もできない。
「じゃあ、どうするんだ?」と聞けば、「一日一食にする」。
定期的に福祉団体などが慈善事業の一環として行っている「食料支援サービス」を活用しているそうだが......。「我々一日一食組が、エンゲル係数の上昇をかろうじて止めているんだぞ」と笑った。
確かに「エンゲル係数28・3%」は正確ではないような気がする。「一日一食組」を勘定に入れれば、本当のエンゲル係数は30%を超えているのではないか? エンゲル係数は時代を反映する。例えば、第二次世界大戦直前のエンゲル係数はおよそ30%。敗戦で日本中が貧乏になってエンゲル係数は何と約60%。昨年は「戦争直前の貧乏」に似ているようだ。
この4月、物価高はさらに進む。備蓄米が流通してもコメの値段は上がる。自宅近くのスーパーの店員さんは「4月からコメは値上がりし、5月に在庫がなくなる!との連絡を本部から受けた」と話す。まさかコメが食べられなくなる?
「貧乏が去る(猿)像」のご利益は当分、期待できそうもない(笑)。