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2023年7月23日号
スポーツ 阿部兄妹ら4人がパリ五輪へ 柔道界が異例「早期」代表内定
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 全日本柔道連盟は6月29日の強化委員会で、来年7月から始まるパリ五輪の代表4人を発表した。女子は48㌔級の角田(つのだ)夏実(30)、52㌔級の阿部詩(うた)(22)、70㌔級の新添(にいぞえ)左季(27)の3人。男子は66㌔級の阿部一二三(ひふみ)(25)の1人。いずれも今年5月のドーハでの世界選手権の優勝者たちだ。

 柔道ではこれまで、五輪開催年の4月に代表を決めることが多かった。東京五輪は、ほとんどの階級で従来より決定を2〜5カ月ほど早め、五輪史上最多の金メダル9個(男子5、女子4)を獲得した。ただ、五輪代表が1年以上も前に選ばれるのは異例だ。

 全柔連は「早期代表内定者がメダルを取る確率が8割を超えるデータがある。五輪ではシード権を獲得した選手がメダルを獲得する確率が高いというデータもあり、計画的に国際大会へ派遣してシード権を獲得したい」(金野潤強化委員長)としている。

 阿部一二三、詩は兄妹そろっての五輪連覇を狙う。新添と角田は初出場だ。

 必殺の巴投げや関節技を持つ千葉県出身のベテラン角田は元々、52㌔級で戦っていた。しかし、阿部詩に五輪の夢を奪われ、階級を下げて悲願をかなえた。48㌔級では世界選手権は3連覇中の実力者でもある。

 新添は、東京五輪で金メダルに輝いて引退した新井千鶴さんの後を任された形だ。奈良県出身の自衛官で切れ味鋭い内股を武器とし、現在はグランドスラム大会は5回優勝している。

 柔道は、五輪の代表選考にレスリングのような明確な規定(基本的に全日本選手権と全日本選抜選手権を制して世界選手権3位以内)を設けていない。代表の早期決定を重視した全柔連は今年3月、「国際大会の実績などを考慮して2番手以下と明らかな差がついたと判断された選手は、強化委員会の承認を経て五輪代表に決まる」と規定した。

 今回の代表選考基準のポイントは「23年ドーハ世界選手権での優勝者」と「各階級2番手との明確な差がある選手」だった。すると阿部一二三と、そのライバルで数々の名勝負を繰り広げてきた丸山城志郎(29)とは明らかな差があるということになるのだろうか。「明らかな差」と規定は、ある意味、抽象的な表現で恣意(しい)的な運用がされる要素が残ることは否めない。

 かつて女子48㌔級で2000年シドニー、04年アテネの五輪を連覇した谷(旧姓田村)亮子さんは、国内大会では敗れていた。しかし、実績や「外国人に強い」などで世界選手権や08年の北京五輪代表に選ばれて物議を醸した。金野委員長は「今までより大幅に前倒ししたため、高い基準を設けるべきと考えた。『2番手との大きな差』の概念として世界選手権優勝と、数字、内容を含めての明確な差とした」と理由を説明した。

 男子の鈴木桂治監督は「今後、パリ五輪代表として五輪までに出場した大会で出た課題を、どうクリアするかが重要」などと話した。東京五輪の代表発表では、五輪を逃した選手に思いを馳(は)せた前任の井上康生監督が人前で涙を流していた。

 全柔連には無念の選手への思いを忘れず、分かりやすい代表選考を進めてほしい。

(粟野仁雄)

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