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2023年5月28日号
スポーツ 存在感薄れる「柔道日本一」? 「発言力」弱い全柔連が原因か
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 ドーハで5月に開かれた柔道世界選手権は阿部一二三、詩の「兄妹優勝」などに沸いた。しかし、その国際大会のあおりで存在価値が薄れてしまった伝統の国内大会がある。毎年4月29日の祝日に行なわれ、「柔道日本一」を決めてきた全日本選手権だ。

 全日本選手権は体重無差別で争い、第1回は1948年。戦前からの伝説の強豪だった木村政彦と石川隆彦が死闘の末に引き分け、双方が優勝した大会や、戦後は山下泰裕(全日本柔道連盟・日本オリンピック委員会会長)の9連覇、軽量の「平成の三四郎」古賀稔彦が巨漢を次々と投げ飛ばし準優勝した大会など、数々のドラマを生んできた。他の重要大会のように複数試合を同時進行させず、日本武道館に1面だけ設けられた試合場で初戦から1試合ずつ行われ、大会第1試合開始時には大太鼓が館内に響き渡る。ファンも取材者もじっくり観戦できる唯一の舞台だ。出場できるのは各地区からの精鋭40人。柔道を志した者の憧れのトーナメントを今年制したのは王子谷剛志(30)。所属する旭化成の同僚の羽賀龍之介(32)を決勝で破り、6大会ぶり4度目の優勝を果たした。五輪出場の機会に恵まれず、引退も考えた実力者の涙の復活劇でもあった。

 だが、今回は「日本一」と言いにくい事情がある。直後の5月から世界選手権が始まり、重量級の代表に選ばれている前年の全日本覇者の斉藤立(たつる)(21)や、影浦心(27)、飯田健太郎(25)らが参加しなかった。世界選手権は来年のパリ五輪の予選の一つとなっており、致し方ないとはいえ、例年世界選手権は夏から秋で昨年は10月だった。今年は8月予定を国際柔道連盟(IJF)が昨年、突然5月に変更した。

 全柔連は選手の調整期間を考え、早々に男女18人の代表選手を内定した。これで代表は春の全日本選抜体重別選手権と全日本選手権に参加しなくなった。また、二つの伝統大会が世界選手権や五輪の選考会にならず、関心も薄まってしまった。

 全日本選手権の終了後、男子日本代表の鈴木桂治監督に伝統大会の「地位低下」を問うた。鈴木氏は「少し変化をつけていくようにしないと。『この日が、こういう大会だから、これで続けていきます』では独りよがりになってしまう。誰が『出てこない』『出られない』ということでいいのかとなると、もったいない。今回でいえば、斉藤立が連覇もできない状況になった。柔道の歴史を考えてもったいない。検討も必要なのでは」と自身の考えを語った。

 実は女子も同様だ。4月23日に行われた全日本女子選手権でも素根輝(22)と濵田尚里(32)という東京五輪の金メダルコンビが世界選手権のために不参加だった。過去、頻繁なルール改正やカラー柔道着導入など、全柔連はIJFに振り回されてきた。背景には全柔連の発言力の弱さもある。鈴木監督は国内大会の日程変更を示唆したが、全柔連は振り回されるだけでなく、「小よく大を制す」が目の当たりにできる全日本選手権の価値を強く訴え、守ってほしい。

(粟野仁雄)

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