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2023年1月15日号
スポーツ 柔道界の「古くて新しい」挑戦 講道館で「文武両道杯」が開催
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 12月18日、東京・講道館で「第4回文武両道杯全国高校柔道大会」が開かれた。第1回は2020年3月に開催予定だったが、コロナ禍で計3回が中止に。今回が事実上初開催で、参加校はいわゆる「進学校」に限定だ。男子は灘(兵庫)、日比谷(東京)、ラ・サール(鹿児島)、浦和(埼玉)、筑紫丘(福岡)など29校、女子は盛岡第一(岩手)、浜松西(静岡)など6校が出場。男子は5人、女子は3人の団体戦で、試合時間は通常の4分より短い3分で行われた。

 試合はやたらに大外刈りが多いなど、初心者らしい選手もいた半面、高度な寝技を披露する選手もいた。防御が未熟で組み手争いも少ない。そのため一本勝ちが多く、見ている方としては面白い大会ではある。

 大会要項には開催趣旨について「柔道部活動を通じて文武両道を実践する高校を招待」「柔道の持つ教育的価値を重視する文武両道を実現することを奨励」「全国の高校の柔道部活動のモチベーションの向上」とある。そして、選定委員会による選考などを経て、選手数や監督の有無などの条件を満たした学校が出場。男子は浜松西、白陵(兵庫)、大阪星光学院、長崎東がベスト4入りし、決勝は長崎東が浜松西を破り、初代優勝校に輝いた。女子は盛岡第一が優勝した。

 選定委員席には東大、京大の柔道部OBらが陣取った。三本松進委員長は1970年代、東大柔道部主将として活躍し、当時は「東大に行かなければオリンピックも目指せた」とも言われた。近年の東大の名選手といえば田上創さん(29)だろう。東京・戸山では全国高校総体の男子100㌔超級決勝で、後に全日本選手権を制し「柔道日本一」に輝く王子谷剛志(神奈川・東海大相模)に僅差で敗れた。東大では国内トップ選手が集う講道館杯全日本体重別選手権にも出場した。

 三本松氏は「スポーツ特待制度ではなく、一般入試で入学した高校生に限定しました。国立大などにどのくらい合格者がいるかを基準にし、難関私立大の系列校も外しました」と話す。東大柔道部は元々、合格者を出している進学校の柔道部を招待する「七徳杯」という大会を開いているが、それがベースだそうだ。

 開催を熱望してきたのは全日本柔道連盟の山下泰裕会長だ。「やっと開催できて感無量。机に向かって勉強する姿勢を失い、世の中の動きに無関心になっては、どんなチャンピオンになっても意味がない。過去に各界で活躍した人たちで柔道にも打ち込んだ人が多くいる。大会がそういう人材を生むため発展してほしい」と言葉にも力が入る。

 世界選手権の優勝経歴のある朝比奈沙羅さんは獨協医科大に進学したが、高校時代は「スポーツ選手は『勉強を全くしないバカ』みたいに思われるのは嫌だった」と語っていた。今大会で活躍した浜松西は、五輪銀メダリストの溝口紀子さん(現日本女子体育大教授)も輩出している。

 確かに「文武両道」のスローガンは古めかしいし、絶対的価値ではない。ただ、スポーツで名を馳(は)せた学校が、その後に進学コースを設けて「うちは文武両道です」と言うのも......。有名選手は不在で報道席はさびしかったが、山下氏の新しい試みに注目したい。

(粟野仁雄)

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