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2024年3月24日号
韓国 トランプ氏「復権」に戦々恐々 支持が広がる「独自核保有」論  
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 11月の米大統領選に向けて、日本では「もしトラ」という言葉が流行し始めた。共和党の候補指名争いでトランプ前大統領の指名が確実になったが、もし再び政権に就いたら世界はどうなるか。前政権時、相当な「お騒がせ」だった彼が再び指導者になれば、日本をはじめ世界には少なからぬ波乱が生じかねない。

 韓国でも「もしトラ」の現実に戦々恐々としている。それは、トランプ政権当時、政治・外交・経済・安保と日本以上に振り回された。その経験を振り返れば十分に理解できる。

 一方、韓国には日本では信じがたい動きが可視化している。韓国が独自で核武装をすべきだとの、いわば「核自彊(じきょう)論」がじわじわと広がっている。この数年、国民を対象にした世論調査では、米国の核の傘に依存するのではなく、「韓国独自の核武装をすべきか」という質問に6〜7割の回答者が「イエス」と答える調査が頻出しているのだ。

「米国は拡大抑止と核の傘で韓国を保護すると約束しているが、いざ北朝鮮が核兵器で韓国を攻撃する場合、米国が北朝鮮との核戦争を甘んじて核兵器で報復できるだろうか」

 今年2月に来日した韓国・世宗(セジョン)研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)・韓半島戦略センター長は東京都内の講演会で、このように主張した。

 鄭氏は著名な北朝鮮研究者だが、現在の韓国では核武装推進論の先駆者だ。核武装論を推進していく団体も設立している一方、そこには「極右・極左といった極端な主張をする者はいない」と断言する。

 北朝鮮が韓国を核攻撃したとき、従来の約束通りなら米国は核の報復をしてくれるのか。仮にロサンゼルスへの核攻撃が予想されても、韓国と同調するのだろうか―。そう疑う人が韓国には少なくないというのだ。

 特に北朝鮮と2回の首脳会談を行い、金正恩(キム・ジョンウン)総書記とは「恋に落ちた」とまで口にしたトランプ氏だ。北朝鮮を核保有国として認めるのではないかとの心配も韓国で聞かれる。

 韓国には核兵器を造る技術も材料もある。NPT(核拡散防止条約)加盟国で、核兵器を造ろうとすれば国際社会からの経済制裁も予想されるが、1990年代末にインドやパキスタンが核保有した時も制裁を受けたが、一時的に過ぎなかった。ましてや世界経済でのプレゼンスが高い韓国に対し、有効な制裁ができるだろうかと鄭氏は説く。

 日本独自の核兵器保有も容認できると言う。日米韓が原子力分野で積極的に協力し、核兵器を保有し、核の均衡をつくることで、北朝鮮や中国に対抗できる平和が訪れるとまでいう。

「韓国の核兵器で北朝鮮の核兵器を牽制(けんせい)し、日本の核兵器で中国の核兵器を牽制できれば、北東アジアに新たな平和と安定の時代が来る」。鄭氏はこのような構図を示す。

 唯一の戦争被爆国で、非核三原則を掲げる日本で、隣国が核兵器を持てば......。もしかしたら「もしトラ」以上に恐ろしい状況になるかもしれない。

(浅川新介)

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