牧太郎の青い空白い雲牧太郎の青い空白い雲/1018
「お客様がやってきたら、まず背広のバッジを見るんだよ」 そう母から教えられた。東京・柳橋で料亭を開いていた母は「小学生の息子」に〝下足番〟をやらせ、花柳界のイロハを教えてくれた。 この商売、お客の職業を見きわめるのがまず大事。「客筋は〝商〟が5割〝髭(ひげ)〟が3割、〝雑〟が2割。一番気をつけるのは〝髭〟」と教わる。「商」とは実業家、銀行家。「髭」は政治家、軍人、弁護士。「雑」は俳優、力士、芸人。最も神経を使う「髭」とは......いわゆる「士業」である。「ほとんどの客が、資格試験に合格した自分が一番エライ!と思っているから(笑)......気をつけるんだよ。この種のお客さんは胸にバッジをつけているから」 議員バッジ、弁護士バッジ、公認会計士バッジ......。もちろん「商」でも、看板に自信がある三井、三菱、住友など財閥系も必ずバッジをつけていたので、すべて覚えた。 新聞記者になってからは「ヤクザの代紋バッジ」を勉強した。暴力団は組織の統制と団結のシンボルとして、明治時代の初めから「代紋」を定めた。現代でも、その意匠から「菱」といえば山口組。「稲穂」といえば稲川会。「マル住」といえば住吉会......。ヤクザバッジは「脅しの道具」? それぞれの世界でバッジは「権威」なのかもしれない。 ところが今、いわゆる「金バッジ」がなくなるという事態が起きている。富山県では「カネ(財源)がなくて、14金の議員バッジができない」という騒動だ。 富山県議会事務局によると、現行のバッジは直径約1・8㌢、重さ約10㌘で、金はおよそ3・7㌘。1個当たりの作製単価は2023年の改選時は3万9820円だった。ところが、金価格がウナギのぼり、25年の見積もりで約2・5倍の9万7900円まで高騰したという。 金価格が、過去最高値を更新しているから仕方がない。 富山県議会では全会派の意見を聞いて、来年春の改選時から金メッキより傷が付きづらく、黒ずみが起きにくいとされる「銀台金張(ぎんだいきんばり)」に変える。で、1万6000円ぐらいに抑えたらしい。 市民にしてみれば「金バッジ」は必要はない!と思うけど......。ある弁護士さんは「銀バッジにしたら良い!」と言う。弁護士バッジは「純銀」に金メッキが施されていて、その金メッキが長年使っていると徐々に剥げ、地の銀が見える。「そこで、わざとバッジをこすってメッキを剥がし、キャリアのある弁護士と思われるようにする奴(やつ)もいる」と笑う。 金より銀? どうしても議員バッジが欲しいなら「銀」でいこうじゃないか(笑)。