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2024年3月24日号
社会 神戸大でウクライナ語が盛況 ロシア語講座が「退潮」の中で
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 ロシアによるウクライナ侵攻から2年余、ウクライナ語を学ぼうとする若者が増え、神戸大(神戸市)では昨秋から開講した講座が大人気だ。

 NHKは侵攻直後の2022年春から、テレビのロシア語講座番組を打ち切った。打ち切り自体は侵攻前から決まっていた。旧ソ連指導者ミハイル・ゴルバチョフ氏(22年8月死去)の登場で一時は高まったロシア語学習ブームは遠くに去り、ロシア語を教える大学は減少。ロシア語人気の下落傾向にはあった。

 神戸大でも22年度の第2外国語のロシア語履修者は117人でそれまでの半減、23年度はさらに減った。危機感を持ったロシア語担当の教員らが、「学生はニュースでよく聞く言語に関心を持つ。ウクライナ人が関西にも多く避難し、支援したいと思う若者も多い」とウクライナ語講座の開講を決めた。

 神戸大にはウクライナ語の専門家はおらず、非常勤でロシア語を教えていた神戸市外国語大(神戸市)の岡野要准教授が第2外国語のロシア語に加え、ウクライナ語も教えることになり、昨年10月に開講した。岡野准教授は「せいぜい10人くらいと思ったので、定員40人の教室にした。そうしたら教室の外に履修希望者が列を作ったんです。急遽(きゅうきょ)、100人以上入る広い教室に変更するなど慌てました」と開講前を振り返る。最終的に約80人がウクライナ語を受講している。

 とはいえ、大学生の語学選択と、受験生の入試で志望・志願する語学は、同じような傾向ではない。上智大の外国語学部では、ロシア語学科の受験者は増えている。入試については、前年に倍率が下がると「入りやすい」と考えて翌年に倍率が上がり、倍率が上がると再び翌年は落ちる「隔年現象」なども影響しているのかもしれない。

 ウクライナ語、セルビア語などスラブ系言語は、これまでロシア語を習得した人が、幅を広げて勉強するのが一般だった。大阪大でセルビア語も教える岡野氏もその一人だ。それだけに「最近はウクライナ語が入り口になりつつあります。履修希望者は、全くロシア語を知らない学生がほとんどです」と驚いている。

 今のところ、神戸大でのウクライナ語講座は秋から冬までの半期で今秋から再開するが、「通年での開講になれば学生の興味が持続しやすいと思います」(岡野准教授)。

 いつの世も外国語学習は国際情勢に影響される。冷戦時代、旧ソ連の原子力や宇宙工学の最高技術を学ぶため、理工系研究者がロシア語を習得した。研究文献が英訳されないからだ。旧ソ連崩壊で英訳が進み、ロシア語学習者は減った。

 岡野准教授は「就職に役立つとかの実利的理由でなく、現在の国際情勢をみてウクライナ語に興味を持ってくれるのは素晴らしい。習得すれば逆にロシア語も学びやすい。侵攻があったから『ロシア語はしない』ではなく、語学からスラブ民族の歴史や文化に触れて戦争以外のことも知ってほしい」と期待する。

(粟野仁雄)

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