半導体の受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が2月6日、日本で2番目となる半導体工場を熊本県に建設すると正式に発表した。工場の運営会社にはソニーグループなどに加え、新たにトヨタ自動車が出資し、同県菊陽町の第1工場と合わせた投資額は日本円で3兆円を超える規模となる。
TSMCは日本初となる第1工場が2月24日開所式で、今年10〜12月の量産開始を目指している。二つの工場では3400人以上の高度な人材の雇用を生み出すとしており、生産する製品は自動車など幅広い用途向けで回路線幅40㌨㍍(ナノは10億分の1)のほか、6〜7㌨㍍などの先端半導体になる方向だ。政府は2023年度補正予算で、既に第2工場への支援を念頭に、先端半導体の量産を支援する基金として7600億円余りを盛り込んでいる。
TSMCの工場進出に伴う地元の経済効果は、21年から10年間で20兆770億円に上る(九州経済調査協会)と推計されている。熊本県内に限っても10兆5360億円で、県予算の10年分を超える一大プロジェクトだ。特に設備投資に加え、雇用増による消費拡大など波及効果は絶大だ。
その起爆剤を地域の底上げに結びつけるキーパーソンとして注目されているのが、地元の熊本大の小川久雄学長だ。「小川さんはTSMCの熊本進出が決まった21年秋の半年前に熊大の学長に就任した。TSMCのために熊本に戻ってきたような〝運命の人〟だ。本人も『100年に1度のチャンス。絶対にモノにする』と豪語している」(地元地銀幹部)という。
小川氏は熊本大医学部を卒業後、1997年には助教授、2000年に教授には就任。16年には国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の理事長となった。19年には同センターの移転拡張を主導し、新薬や治療機器などを企業や大学と共同開発する研究ラボを新設した実績がある。その知見を生かして熊本大でも今春、TSMC進出に合わせて半導体の教育・研究に関する拠点やカリキュラムなどを整備する半導体関連の学部として「情報融合学環」を新設する。「小川さんは熊大がインキュベーターとなって高度人材を育成し、そこから生命科学や新産業を興すと意気込んでいる。産学官そして金融機関を結び付け得るキーマンとして期待している」(同)
TSMC進出に地元金融機関の期待も高まっている。ふくおかフィナンシャルグループ傘下の福岡銀行など九州・沖縄の地銀11行は1月に半導体産業の振興を目的とした連携協定を結んだほどだ。共同で投融資やファンドの組成に取り組むという。「TSMC工場新設に伴い関連する企業群の進出意欲も旺盛で、膨大な資金需要が見込まれる」(同)という。
台湾の大手金融グループ傘下の東京スター銀行も熊本県に拠点を開設したほか、メガバンクでも関連する設備投資資金を準備している。さらに、JR九州は菊陽町と覚書を結び、豊肥線に27年春を目処(めど)に新駅を開設する予定だ。
関係者によると、TSMCは第4工場まで設置される構想も浮上している。TSMCフィーバーは続きそうだ。
(森岡英樹)