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2024年3月 3日号
経済 「日銀のプリンス」一目置いた 翁百合氏が政府税調新会長に
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 政府税制調査会は1月、委員の互選で日本総合研究所理事長の翁百合氏を会長に選出した。2013年に就任した東大名誉教授の中里実氏から11年ぶりの交代で、女性が会長に就くのは初めて。

 首相官邸で開かれた25日の会合には岸田文雄首相も出席し、調査会メンバーに対して「経済成長と財政健全化の両立を図るとともに、少子高齢化やグローバル化など経済社会の構造変革に対応した税制の在り方について審議をお願いしたい」と述べた。

 翁氏は1960年生まれの東京都出身。82年に慶應義塾大経済学部を卒業、84年に同大大学院経営管理研究科修士課程(MBA)を修了し、同年に日銀へ入行した。「小・中・高と田園調布雙葉で、父親は帝人に勤める典型的なお嬢様。それでいて、決してお高くとまらず、庶民的で誰にも優しく接するタイプ」(翁氏をよく知る日銀OB)。日銀時代に行内結婚し、92年に日本総合研究所に転じた。夫は日銀企画局参事、日銀金融研究所長などを務め「日銀理論」で知られる翁邦雄氏で、厚生事務次官、内閣官房副長官などを務めた翁久次郎氏は義父にあたる。「翁氏は日銀に残って金融政策の研究を続けたいと思っていましたが、結婚から数年後に夫婦いずれかが退職するよう暗に求められ、シンクタンク機能を統合して間もない日本総研に移った」(同)という。

 筆者が取材を通じて翁氏を知ったのは、日本総研に転じて間もない頃で、金融自由化が銀行経営にもたらす影響などを、分かりやすく解説してくれたことを覚えている。その後、住専問題や銀行の不良債権処理について意見を求めた時も、日銀出身者らしく、客観的な立場から不良債権処理には共同の買い取り機関が必要だろうと、厳しい見方をしていた。

 97年、37歳の時に長男を出産した際は、仕事と育児の両立を図るため、職場に近い東京都千代田区に引っ越し、保育園に預けて産後3カ月で職場に復帰した。その人柄から「日銀のプリンス」と呼ばれた福井俊彦氏(元日銀総裁)に可愛がられた。「福井さんは、部下の過剰接待問題の責任をとって、98年に副総裁から富士通総研理事長に転じました。知られていないことですが、当時、日本総研にいた翁氏を富士通総研に来ないかと誘ったことがあります。最終的には条件が合わず流れましたが、その後、2003年に福井さんが日銀総裁に返り咲いた後も、翁氏のことを気にかけていた」(日銀元局長)

 翁氏は18年から日本総研の理事長に就く一方、ブリヂストンや丸紅の社外取締役を務め、政府税調はじめ、経済産業省産業構造審議会委員、内閣官房「新しい資本主義実現会議」構成員など政府の各種委員などを務めている。昨年4月に退任した黒田東彦(はるひこ)前日銀総裁の後任候補としても名前が浮上。「日銀出身でエコノミストとしての知見も高く、金融政策に精通した翁氏は、初の女性総裁候補の筆頭だった」(日銀関係者)

 翁氏は税調会長就任会見で「物価を上回る賃金を実現することが最大の課題。それに資する税制が短期的には重要だ」と強調した。女性やフリーランスが増加し、働き方も多様化する中、実質賃金も引き上げる税制の在り方が問われている。

(森岡英樹)

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