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2024年2月11日号
経済 日航新社長の鳥取氏が遂げた3つの「初」と4代連続「現場」
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「ガラスの天井」を破る画期的な人事だった。日本航空(JAL)は1月17日、代表取締役専務執行役員である鳥取三津子氏(59)が4月1日付で新社長に就任すると発表した。現社長の赤坂祐二氏(62)は代表取締役会長となり、植木義晴会長(71)は退任する。

 大手航空会社で女性社長誕生は初、しかも鳥取氏は客室乗務員(キャビンアテンダント、CA)出身で、2002年にJALと経営統合した日本エアシステム(JAS)入社組。CA、JAS出身者の社長就任は前例がなく、正に「初」が三つ付く抜擢(ばってき)人事だ。

 就任発表のタイミングも異例だった。1月17日は赤坂社長の定例記者会見の一方、直前の2日には羽田空港で海上保安庁機とJAL機が衝突事故を起こしたばかり。集まった記者は、事故後の対応を聞こうと身構えていた。ところが、社長人事が発表されたのだ。「羽田の衝突事故ではCAの的確な対応で乗客全員が無事脱出するなど、CAの評価が高まっていただけに、CA出身の鳥取氏の社長起用はサプライズだった」(全国紙記者)という。

 鳥取氏は福岡県出身で、長崎県の活水女子短大英文科を卒業し、1985年にJASの前身の東亜国内航空(現JAL)へ入社した。CAを長く務め、執行役員客室本部長、常・専務を経て現在はグループ最高顧客責任者(CCO)を務めている。「活水女子短大は2005年に閉学しましたが、地元では有名な〝お嬢様学校〟。規律も厳しくジーンズでの登校や喫煙も禁止されていたほど」(福岡県の企業経営者)。鳥取氏はバレーボール部に所属していたという。

 また、鳥取氏が入社した年には、日航ジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落し、520人が犠牲になる大事故が発生した。鳥取氏は「当時、受けた衝撃は今も大変強く心に刻まれている。安全運航の大切さを次世代に継承していく、そういった強い責任感を今も持っている」と就任会見で強調した。安全運航と顧客重視の経営が鳥取氏の背中を押したことは確かだ。

 また、政府が進める女性の活躍支援も鳥取氏の社長就任の追い風となった。JALは中期経営計画でダイバーシティー重視を掲げており、グループ内管理職に占める女性の比率30%という経営目標を掲げている。女性社長の誕生はその象徴と言っていい。

 JALの取引銀行幹部は鳥取氏を「自分でグイグイ引っ張るタイプではないが、気配りを絶やさず、周りからの信頼も厚い」と評価する。鳥取氏を抜擢した赤坂氏も「お客さまと社員を真ん中にした経営をしてほしい」と期待を寄せる。

 JALは2010年の会社更生法適用申請に始まり、コロナ禍など数々の試練に立たされてきた。その都度、蘇(よみがえ)った原動力は「現場力」だった。経営破綻以降は整備士、パイロット、客室乗務員と4代続けて現場出身者が社長に就くのも偶然ではない。コロナ禍で落ち込んだ業績も需要回復から23年3月期は増収黒字化し、24年3月期も増収増益を予想している。ただ、ライバルの全日本空輸(ANA)に収益面では後塵(こうじん)を拝する。ガラスの天井を破った鳥取氏の手腕が問われる。

(森岡英樹)

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