予想通りの判決にもむなしさが残るばかりだった。2019年7月に36人が犠牲になった京都市伏見区での京都アニメーション放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)に、京都地裁(増田啓祐裁判長)は1月25日、死刑を言い渡した。
犯行時の刑事責任能力について、増田裁判長は心神喪失も心神耗弱も否定し、「責任能力は多少低下していたとしても、大きな減退まではなかった」とした。弁護側が主張した妄想の影響については、動機の形成に一定の影響を与え、「犯行を思いとどまる能力は多少低下していた疑いが残る」と指摘した。
ただ、被告自身の攻撃的な性格や独善性に基づいて放火殺人という手段を選んだと認定。動機については、京アニのコンクールに応募した小説が盗用されたと思い込み、京アニや同社の女性監督に一方的に恨みを募らせたことだと認めた。そして、「まれに見る被害の大きさで社会に衝撃を与えた。死刑を回避する余地はない」と結論づけた。
死刑判決を青葉被告は黙って聞いていた。増田裁判長が「何か言っておくことはありませんか?」と尋ねると、小声で「ありません」と答えて退廷したという。
裁判員裁判で行われた今回の裁判は、遺族側の申し出を受けた裁判所の判断で、19人の犠牲者は名前を伏せて番号で呼ばれた。その中でも京アニを代表するアニメーターだった寺脇(池田)晶子さん(当時44歳)を亡くした夫(51)は、被告人質問で「青葉さん」と呼び掛け、青葉被告から反省や謝罪の言葉も引き出した。判決後、夫は「判決をそのまま晶子にも子どもにも伝えられる」と少し安堵(あんど)した様子で語っていた。
色彩設計を担っていた石田奈央美さん(当時49歳)の父親は、初公判の1カ月前に亡くなった。石田さんの母親は判決後、「極刑しかないと思っていた。夫も今日の判決を聴きたかったと思う」と話した。京アニの八田英明社長は判決を受け、「無念さはいささかも変わりません」などとコメントを出した。一方、青葉被告の弁護人は26日に控訴した。
筆者も事件発生当時、遺族の取材に回った。ただ、取材に応じてくれる遺族は本当に僅かだった。そんな中、彩色担当のベテラン社員だった娘を亡くした兵庫県播州地域に住む男性は事件から1週間後、筆者の取材に応じてくれた。
「自分の姉からの連絡があり、ニュースの映像を見て、『これはあかん』と覚悟しました」と事件当時を振り返った男性。自宅に招き入れて「テレビのアニメのエンドロールで娘の名前が出ると、妻はすごく喜んでいた」「帰省すると京都の銘菓や寿司(すし)を持ってきてくれる優しい娘でした」「犯人が憎いとかの気持ちは今は湧かない。自分でもわからない。でも、最悪ですわ」などと偽らざる思いを口にしてくれた。
判決を巡る一連の報道を追うと、男性はもう取材を受けていないようだ。犠牲者やその遺族の無念を想像すると、胸が締め付けられる思いがした今回の事件。男性はどんな思いで判決を見ていただろうか。
(粟野仁雄)