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2024年1月14日号
社会 SNS時代だからこそ広がる 神社の絵馬用の「保護シール」
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 願い事を書いて神社に奉納する絵馬が近年、変化している。絵馬に書いた願い事や氏名、住所などにシールを貼って見えなくする神社が増えているのだ。主因はSNS。絵馬を勝手に撮影されて拡散され、中傷されたりからかわれたりすることを恐れるためだ。

 商売繁盛の神様として知られ、例年110日早朝に開門と同時に参拝一番乗りを競って境内を走り抜ける神事「福男選び」で有名な西宮神社(兵庫県西宮市)でも保護シールの貼られた絵馬が増えている。同神社によれば、シールは各自が持参してくるという。

 下鴨神社(京都市)の末社で縁結びとして知られる相生社(あいおいのやしろ)では、多くの絵馬に「えんむすび」と書かれた赤いシールが貼られている。同神社が無料で配布しているもので、大塚高史権禰宜(ごんねぎ)は「具体的な被害を聞いたのではなく、SNSのようなものが出てきた15年ほど前から、拡散による被害を想定してシールを置いています。9割の方が貼っているようですよ」と話す。

 その名前から、フィギュアスケートの羽生結弦さんのファンの「聖地」とも言われる弓弦羽(ゆづるは)神社(神戸市)では、隠したい人には願い事などを書いた紙を神社のキャラクター「ゆづ丸」の張り子に入れ、奉納してもらうようにしている。また、2枚の薄い板の絵馬を販売し、重ね合わせて書いた内容が見えないようにし、絵馬掛け所にぶら下げてもらう神社もある。

 絵馬は古来、馬に乗って神様がやってくるという言い伝えからきており、最初は馬を神社に奉納していたという。しかし、時代とともに簡略化され、大きな板に描いた馬の絵を奉納するようになった。その後、現在のような簡便な絵馬に変わっていったという。

 願い事などを隠すことについては「SNSで拡散されて『嫌がらせを受けた』とか聞くし、中傷などの防止には仕方ないかな」(下鴨神社に参拝に来ていた女性)など肯定的な声が多い。ただ、「神様に見えなければ意味がないのでは」という素朴な疑問もある。これについて前述の大塚氏は「お祈りの時もいちいち内容を声に出すわけではないと思います。それと同様に我々に見えないからといって、神様に伝わらないというわけではありません」と語る。

 かつてなら好きな同級生の名を書いた絵馬を、たまたま見た級友に冷やかされた程度だった。だが、SNSの時代では、その範囲は下手をすれば「世界」になる。また、誰でも見られる場所に自己意思で出しているのだから撮影、拡散されても仕方がないというわけではない。個人情報保護に詳しい弁護士によると、氏名や住所、内容などを勝手に撮影して拡散すれば、慰謝料を請求される可能性もあるという。

 新春を迎え、受験シーズンも本格化する中、希望の大学や高校への合格を願う絵馬は多い。そんな若者たちの願い事を見かけると応援したくなるし、恋愛成就の願いに触れると、実ってほしいと思い、心も和むものだ。「保護シール」で、そんな気分も味わえなくなると思うと少し寂しい気がする。

(粟野仁雄)

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