「近い将来、黄昏(たそがれ)研修も無くなるかもしれませんね」
こう感慨深げに語るのはあるメガバンクの中堅行員だ。どこの銀行でもそうだが、銀行員の現役寿命は短い。役員にならない限り、40代後半から50代に入ると同期がポロポロと間引きされていく。その入り口で行われるのが「黄昏研修」だ。正式名称は別にあるが、「銀行員生活も終わりに近づいた」という意味で、行内ではこう呼ばれている。
当該銀行を辞したOBによると、研修では自身の強み、弱みのほか、持っている資格などを書く(見える化する)ことで、これからの人生に臨む〝気づき〟の場となっている。ただ「さすがに〝家族への手紙〟を書かされた時には涙が出たが」という。
しかも給与も減額される。最終ポストにもよるが、50代で関連会社などに出れば、現役時代の給与の約6割に減らされるのが通例。銀行に残ったとしても55歳でやはり6割に減らされる。出るも地獄、残るも地獄なのだ。
だが、こうした銀行員地獄も人口減を背景にした人手不足から終わりを迎えそうだ。メガバンクの一角、みずほフィナンシャルグループ(FG)は55歳になると、一律に給与水準が下がる仕組みを2024年度から撤廃する。60歳までは役割給制度に基づき、若手や中堅と同様に給与が支払われるというもので、「職務によっては55〜60歳の間でも給与水準が上がる可能性もある」(みずほ関係者)。いきおいシニアのモチベーションは高まっている。
みずほFGでは24年度から、グループ5社(みずほFG、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券、みずほリサーチ&テクノロジーズ)共通の新たな人事の枠組み「かなで」を導入する準備を進めている。
「かなで」とは、みずほFGの木原正裕社長が打ち出したスローガン「ともに創る。ともに奏でる。」からとられたネーミングで人事の共通基盤となる。「社員個々の挑戦、貢献が役割給や賞与などで報われる、個に向き合う人事制度」(同)で55歳からの一律給与水準引き下げ撤廃も歩調を合わせた施策とされる。
同じく、三菱UFJ銀行も新年度からシニア層の活用を積極化させる。50歳以上の行員が自ら異動を志願して別の部署で働ける「シニアFA(フリーエージェント)制度」を導入する。プロ野球のFA制度を想起させる仕組みだが、まず本部の50歳以上の2500人規模を対象に、働きたい部署などを募集する計画だ。給与は異動後の職位に基づき支払われる。さらに、りそなグループは60歳定年制を延長し、最長で65歳まで選べるようにしている。再雇用もあり最長70歳まで働くことも可能だという。
こうしたシニア層の活用は、何も銀行に限ったことではない。特にバブル期の大量採用組が退職の時期を迎える中、その穴を埋めることは容易なことではない。シニア層の経験に裏打ちされた知見やスキルは一朝一夕に備わるものではないだけに、その活用は経営の最重要課題となっている。役所や銀行、大手企業は、高学歴の優秀な人材を惜しげもなく使い捨てにしてきた。そろそろ発想の転換が必要だろう。
(森岡英樹)