財務相の諮問機関である財政制度等審議会は11月20日、2024年度予算の編成に向けた提言にあたる建議(意見書)をとりまとめ、分科会の会長を務める経団連の十倉雅和会長が鈴木俊一財務相に手渡した。建議では焦点となっていた診療報酬の改定について、現役世代の負担を軽減するため、医療従事者の人件費などにあたる部分を引き下げるよう求めた。
また、今後の財政運営についてコロナ禍で膨らんだ歳出の構造を平時に戻すのは当然とした上で「今後、物価高や金利上昇が常態化する可能性があり、国債の利払い費が急激に増えるリスクも念頭に置いて、財政余力を確保していくことが求められる」と指摘した。
この金利上昇に懸念を示したのは、増田寛也・財政審分科会長代理だ。増田氏は記者会見で、金利が上昇する中での今後の財政のあり方について「相当多額の借金をして予算を編成していることを考えると、金利の上昇が続けば、利払い費が大きくなって財政の硬直性が増していくことになり、政策的な財政運営を行うのが非常に難しくなる。今こそ財政健全化に切り替えていく大きな節目だ」と述べた。
この増田氏の発言について、メガバンク幹部は「自社(日本郵政)の利益にも直結する悲鳴のような願いにも聞こえた」と指摘する。増田氏は日本郵政社長でもあり、傘下には日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を持つ。政府が株式を保有しているとはいえ、民間企業である日本郵政社長が財政審の分科会長代理を務めることに違和感がないわけではない。そうだとしても、「日本郵政傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命は国債を大量に保有する運用機関であり、その持ち株会社のトップが金利上昇に懸念を示すのは、そのまま日本郵政への懸念表明に等しい」(メガバンク幹部)というわけだ。
日本郵政が11月13日に発表した23年4〜9月期の決算は、純利益が前年同期比で約4割減の1202億円に落ち込んだ。ゆうちょ銀行やかんぽ生命の純利益は増加したものの、日本郵便が減収減益だったのが響いた。また、ゆうちょ銀行株の売却により、持ち分比率が低下したことも純利益を押し下げた。ゆうちょ銀行、かんぽ生命は増益だったとはいえ、過去最高益を更新したメガバンクや大手生保と比べ、その増益幅は見劣りする。
ゆうちょ銀行の4〜9月期の純利益は前年同期比235億円増の1821億円に過ぎない。資金運用益は同665億円増の6776億円だが、うち国債利息収入は同375億円減の929億円に沈んだ。保有する国債残高は38兆9045億円で、運用資産全体の17・1%を占める。
また、かんぽ生命の4〜9月期の純利益は前年同期比4・4%増の504億円で、資産運用益は同632億円増の6194億円だが、公債など公社債利息収入は同63億円減の3447億円に低下した。国債残高は36兆7622億円、運用資産全体の59・7%を占める。
財政不安が生じ国債金利が急上昇すれば、ゆうちょ銀、かんぽ生命は巨額な含み損を抱えることは避けられない。財政健全化は日本郵政にとっては死活問題となっている。
(森岡英樹)