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2023年12月10日号
経済 企業の「四半期報告書」廃止へ 「日本に投資を」との整合性は
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 政府が上場企業約4000社に開示を義務付けている決算書類「四半期報告書」が廃止されることが決まった。関連する改正金融商品取引法が11月、衆院本会議で可決、成立した。来年4月から取引所規則に基づく「四半期決算短信」に一本化されることになる。

 四半期開示は2008年以降、上場企業を対象に義務化された。だが、「『四半期決算短信』と『四半期報告書』は、以前から重複が目立つとして経済界から見直しを求める声が強かった」(金融庁関係者)。

 口火を切ったのは21年10月の岸田文雄首相の所信表明演説だ。この中で岸田首相は、企業が長期的な視点に立ち、株主だけでなく従業員も取引先も恩恵を受けられる「三方よし」の経営を行うための環境整備の一つとして検討を表明した。正に岸田首相が提唱する「新しい資本主義」の具体的な施策の一つだ。企業の開示負担を軽減するとともに、短期的な視座に立った経営からより中長期的な視野に立った経営へのシフト、さらに投資家にとっても中長期的な視点に立った投資を促す効果が期待できると説明されている。

 だが、四半期報告書の廃止は両刃の剣となりかねないリスクを伴う。企業の開示姿勢が後退したとの印象を投資家、とりわけ海外投資家に受け取られかねないためだ。

 実は、18年にも四半期開示の見直しが議論された。だが「制度が任意になれば、中長期の視点で投資を行う観点からも進捗(しんちょく)確認の意義を認める見解が大勢として見送られた経緯がある」(市場関係者)という。それが再浮上したのは岸田政権誕生を受けてのことだ。

 経済界にも「四半期開示を巡っては、投資家や経営側の短期志向を助長しているという指摘がある一方、足元の業績動向を迅速にきめ細かく開示するという観点では重要という見解や、四半期開示義務を廃止した諸外国においても、主要企業は自主的に四半期開示を継続しているという指摘もある」(メガバンク幹部)と慎重な意見も聞かれた。

 一方、資本市場の本丸である米国では1970年から四半期開示を法令で義務付けてきた。だが、2018年にトランプ大統領(当時)が決算回数の半減を打ち出して物議を醸した。大統領の指示を受け、米証券取引委員会も検討に入ったが、民主党のバイデン政権が誕生したことで立ち消えになった経緯がある。

 岸田首相は9月にニューヨーク証券取引所で講演し、「日本経済は力強く成長を続ける。確信を持って日本に投資をしてほしい」と海外投資家に呼び掛けた。10月には資産運用立国の実現に向け、国内外の機関投資家や金融機関と首相官邸で意見交換し、国際金融センターを目指し「今後も改革をちゅうちょなく実行し、新しい日本を切り開く」と述べ、日本への投資や参入を呼び掛けた。

 これら岸田首相の「日本投資への呼び掛け」と四半期報告書の廃止は矛盾しないのか。企業の事務負担や監査コストは確実に軽減されるが、株式市場などへの投資マネーの縮小を招いては元も子もない。将来的に四半期決算短信も任意化される可能性もあり、目が離せない。

(森岡英樹)

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