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2023年10月15日号
社会 復興支援でサーフィンフェス 「処理水」を乗り越え南相馬で
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 東日本大震災の前からサーフィンによる地域活性化を計画していた福島県南相馬市の北泉海岸で、9月16日から3日間にわたり、震災復興支援を兼ねたサーフィンイベント「Kitaizumi Surf Festival2023」(サーフパラダイス実行委員会主催)が開かれた。

 福島県の太平洋岸は、発電所付近を含め沿岸にサーフポイントが点在する。なかでも北泉海岸は、駐車場が完備され広いビーチに沿って波が立つサーフスポットとして知られ、全国からサーファーが訪れる。海岸北側は東北電力原町火力発電所に隣接するが、背後の高台は北泉海浜総合公園として整備され、夏は海水浴客でにぎわう。

 今回のイベントは、復興庁や経済産業省も後援に名を連ね、震災で壊滅的な影響を受けながらも復興してきた南相馬のサーフィン文化を盛り上げる意味があった。一月前には、約30㌔離れた東京電力福島第1原発の処理水の放出も始まったが、開催中は天候にも恵まれ県内外からさまざまな年齢層の人たちが訪れた。

 トッププロのサーファーによる競技をはじめ、海外から東京五輪フランス代表のジェレミー・フローレスらが参加しパフォーマンスを披露。相馬といえば野馬追(のまおい)が有名だが、ビーチには馬にまたがった騎馬武者も現れ、海では甲冑(かっちゅう)を身にまとったプロサーファーが水上バイクに引かれて波乗りをするというエキシビションも見られた。

 ステージでは県立湯本高校のフラダンス部のパフォーマンスなどが披露され、海ではキッズサーフィンスクール、そして公園内では〝サーフミュージック〟のライブが行われた。17日にはイベントアンバサダーで自民党サーフィン議連幹事長の小泉進次郎元環境相も訪れた。

 南相馬市ではサーフィンを軸に海辺の環境を利用し、地域を活性化しようという動きが高まり、2003年に官民連携の「南相馬市サーフツーリズム推進委員会」が組織され、活動を開始した。06年には世界大会が開催され、競技の場としての地位をあげたほか、サーフィン目的の移住者が増えるなどの効果が見られた。

 しかし、その盛り上がりも束(つか)の間、11年の震災で沿岸の施設は破壊され、津波による被害者や行方不明者の捜索もあり波乗りどころの話ではなくなった。それが14年ごろからようやく海とのつながりを求める動きが再び起こり、今回のイベントに至った。

 サーフツーリズムを提唱し計画策定にあたってきた福島大経済経営学類の奥本英樹教授は「サーフィンをもっとオープンなものにして社会的な認知度を高めると同時に、サーフィン以外でも広く人々が海に馴染(なじ)めるようにする必要がある」と、サーフツーリズム拡大のポイントを説く。その一方、海と生活権という点では、震災でサーフショップなども被災している中、漁業者のみに目が向けられている点に疑問を呈する。

 この点については、原発立地をはじめ沿岸の開発に対して、漁業権のみが事実上その裁量権を持つ形を問題視する関係者もいる。サーフィンが海岸という自然との関わりを尊重するものであれば、今後は自然海岸の破壊や環境汚染についても、政治色を排したサーフツーリズムがより敏感に反応することが求められるだろう。

(川井龍介)

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