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2023年9月17日号
社会 前人未到の将棋界「8冠」に向け 藤井聡太7冠は王座戦黒星発進
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 将棋の藤井聡太7冠(21)が、史上初の8冠を目指し、永瀬拓矢王座(31)に挑む王座戦五番勝負の第1局が8月31日、神奈川県秦野市の元湯陣屋で指され、大熱戦の末に永瀬王座が先勝した。

 対局開始から早々に角を交換する「角換わり」から、中盤は振り駒で先手番となった藤井7冠がやや優位に進めていた。しかし、終盤まで大きな差はつかず、両者が持ち時間(5時間)を使い切り、1手1分未満で指す「1分将棋」の激戦の中、永瀬王座は受けに徹して藤井7冠の攻撃をしのぐ。藤井7冠の攻撃が続かないことを見極めた永瀬王座が、150手目に放った「3五銀」で王手をかけたところで、藤井7冠は「負けました」と投了した。

 対局後、永瀬王座は「後手番なので、どうついていくかという将棋だった。自信がない展開が続いたが先勝できてよかった」と話した。藤井7冠は「どうバランスを取るかが難しい将棋だった。早くも厳しい状況になってしまったが、できるだけいい状態で(次局に)臨みたい」と語った。

 今回の番勝負は日本将棋連盟会長となった羽生善治九段(52)が1996年に達成した7冠の更新が注目されている。当時のタイトルは名人、王将、竜王、王位、王座、棋王、棋聖の七つで、羽生会長はこれを総なめにした。しかし、2015年に誕生の叡王戦が17年にタイトル戦に昇格し、現在の「総なめ」は8冠となった。

 第1局は、王座戦で19連覇を含む通算24期と驚異的な記録を持つ羽生会長と、立会人の連盟前会長の佐藤康光九段(53)、さらに森内俊之九段(52)と歴代名人が対局室で同席。豪華な顔ぶれが顔をそろえて盛り上がった。

 永瀬王座も今回防衛すれば王座5連覇となり、永世称号に当たる「名誉王座」を獲得する好機だ。名誉王座は羽生会長と中原誠十六世名人(76)しか達成していない。これは王座戦がタイトル戦となったのが1983年で、昇格後は「怪物」大山康晴十五世名人(92年死去)の全盛期ではなかったのもある。とはいえ、永瀬王座も「栄えある3人目」がかかっており、負けられない。

 これで2人の対戦成績は永瀬王座の6勝11敗。分は悪いが、永瀬王座は昼食時、藤井7冠と同じ大きな伊勢エビの乗った特製カレーを食べた上に午後5時からの夕食にも同じメニューを食べる健啖家(けんたんか)ぶりを見せた。気合も体調も十分のようだ。一方、2人は研究仲間としての親密ぶりが知られる。終局後、記者たちが入ってくるまでのわずかな間にも声を掛け合い、対局を振り返り始めてもいた。

 将棋でわずかに有利とされる先手番となった時、藤井7冠はタイトル戦9連勝中だった。この連勝を永瀬王座が止め、さらに先勝したことは大きく、藤井7冠のタイトル奪取に黄信号が灯(とも)ったといえる。ただ、藤井7冠は昨年の棋聖戦五番勝負で挑戦者の永瀬王座相手に先手番の初戦を失ったが、その後3連勝して防衛した。前人未到の8冠達成はいかに。

(粟野仁雄)

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