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2023年9月 3日号
金融 米国債の「格下げ」で問われる日本国債の「リスクフリー」度
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 格付け大手フィッチ・レーティングスは8月1日、長期外貨建て米国債の信用格付けを最上位の「AAA」から「AA+」に格下げした。新型コロナ対策に伴う積極的な財政出動や経済の好調を背景に上昇していた米国の株価に、冷や水を浴びせた格好だ。

 格下げの背景には5月に債務上限問題への対応を巡り、民主党と共和党の対立が先鋭化したことがある。「今後も債務上限の引き上げ問題はくすぶり続けるという格付け会社の懸念の表れ」(市場関係者)と受け止められる。米国債については2011年にスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が格下げした過去もある。

 専門家の間では「AAAとAA+では信用力評価上はほとんど差がない。1段階の引き下げは象徴的な意味しかない」との見方もある。しかし、今回改めてクローズアップされたのは「先進国の国債は本当にリスクフリー資産なのか」という基本的な問いなのではなかろうか。代表例がいまやGDP(国内総生産)を大きく上回る国債発行残高を抱える日本の先行きだ。

 日本は政府債務が膨大なので、いずれ経常収支が赤字化して、「成熟した債権国」から「債権取り崩し国」になると危惧されてきた。「国債が暴落するXデーは案外近いかもしれない」という物騒な噂(うわさ)が永田町でささやかれた時期もある。11年2月、民主党・菅直人政権がドン詰まりとなる中、こんな〝悪夢のシナリオ〟が浮上したのだ。

〈海外の大手格付け機関が日本国債の格付けを再引き下げする。つれて長期金利ははね上がり、企業倒産が増加に転じる。為替は急激な円安が進行する。また金利の上昇、国債を大量に保有する金融機関、とりわけ地域金融機関の決算を直撃する。貸し渋り、貸しはがしが再燃し、それが企業倒産をさらに助長するという負のスパイラルに陥る〉

「国債のXデー」とネーミングされたが、これは当時の自民党政調財務金融部会に設けられた「X―dayプロジェクト」から連想されたものだった。プロジェクトの座長代理を務めた宮沢洋一参院議員は当時、自ら次のように発信した。

「『X―day』という言葉の響きには、映画の世界でいえば『地球に隕石(いんせき)が落ちてくる』『テロが勃発する』といった、何かとんでもないことが起こるイメージを想像させます」「日本では、このイメージと同じくらい、国家に大打撃を与える金融危機が、近い将来やってくる可能性を否定できない状況にあります。そのキーワードは『国債』。つまり、X―dayプロジェクトとは『国債が暴落し、日本経済が大混乱を引き起こした時、政府・日銀は何をなすべきか?』について戦略を練るリスク管理プロジェクトです」と。

 その後、政権は民主党から自民党に移り、13年4月から日銀の黒田東彦総裁による「異次元緩和」が開始され、「国債のXデー」の話は雲散霧消した。日銀が大量の国債を買い上げ始めたためだ。そして、いまや国債発行残高の過半を日銀が保有する異常な水準にまで高まっている。

 しかし、今年4月に黒田総裁が退任し、後任に就いた植田和男新総裁の下、異次元緩和からの出口戦略へとフェーズが移りつつある。その過程で国債問題が再びクローズアップしかねない。BIS(国債決済銀行)では、先進各国の国債はリスクフリー資産として位置付けられている。だが、それが未来永劫(えいごう)続く保証はない。

(森岡英樹)

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