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2023年9月 3日号
社会 20歳の伊藤匠が竜王に挑戦へ 藤井聡太の「好敵手」となるか
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 かつて「藤井を大泣きさせた男」が、いよいよタイトル戦に初登場だ。

 将棋の名人、王将、竜王、王位、叡王、棋王、棋聖のタイトルを持つ藤井聡太7冠(21)への挑戦権を争う竜王戦挑戦者決定三番勝負は8月14日、東京都渋谷区の将棋会館で第2局が指され、伊藤匠六段(20)が永瀬拓矢王座(30)を破り、2連勝でタイトル戦へ初挑戦を決めた。伊藤は対局後、「かなり際どい将棋だったので、実感はまだわかない。(藤井名人は)大変強い方。何とか番勝負を盛り上げられるように頑張りたい」と抱負を語った。

 伊藤は小学3年だった2012年1月、「小学館学年誌杯争奪全国小学生将棋大会」で、同学年の藤井と準決勝で戦って勝った。この大会の表彰式で袴姿の藤井はうつむいたまま号泣してしまい、女性司会者が「聡太君、大丈夫かな」と優しく声をかけた。将棋ファンにとってはよく知られる一幕であり、逸話である。

 伊藤は翌13年に奨励会入りし、20年9月には三段リーグを制し、翌10月から四段に昇段してプロ棋士に。藤井は16年10月に14歳2カ月でプロ入り。だが、20年10月1日時点では伊藤は17歳で、18歳になっていた藤井より若い最年少棋士だった。

 21年度には勝率が8割を超える躍進ぶりで新人王に輝く。22年3月に五段、今年に入って六段、竜王戦への挑戦権獲得で規定により七段に昇段し、急速に台頭してきた。居飛車(いびしゃ)党で飛車先の歩を進める「相掛かり」を得意戦法とする。出身は東京都世田谷区で、将棋は5歳の頃、将棋好きな弁護士の父雅浩さんに習ったのが最初で、三軒茶屋将棋倶楽部に通った。父が弁護士なのは、名人や竜王など3冠を保持した豊島将之九段(33)と共通する。

 一方、竜王戦は独自のランキングを用いて出場棋士を六つの組に分け、各組でトーナメント戦を行う。トップ棋士が集う1組は5人、2組は2人、3組以下はトーナメント優勝者が、それぞれ決勝トーナメントに進出。その決勝トーナメントを勝ち抜いた者が、竜王への挑戦権を手にする。

 名人戦もトップのA級から最下位のC級2組まで棋士を5グループに分け、こちらはリーグ戦で各組の順位を競う。ただ、1期(約1年)で上がれるのは一つだけ。そのため、名人戦はどんな「スーパールーキー」であろうと、挑戦まで数年が必要になるのだ。

 対して、竜王戦は下位グループでもトップになれば挑戦のチャンスはある。伊藤は今期、下から2番目の5組トーナメントを制し、決勝トーナメントも突破した。竜王戦で5組優勝者が挑戦権を得るのは初の快挙。順位戦は今期、下から2番目のC級1組。最速でも名人挑戦は27年になる。

「藤井聡太には同世代のライバルがいない」と言われる。今期、王位戦と棋聖戦に挑んだ佐々木大地七段は28歳だが、タイトルで戦ってきた相手は30歳以上だ。一方、叡王戦で藤井に挑んだ菅井竜也八段(31)、今季も順位戦A級の稲葉陽八段(35)を育てた井上慶太九段(59)は、伊藤が四段の頃からこう言っていた。

「伊藤匠さんは絶対に強くなりますよ。藤井さんのライバルになるのでは」

 伊藤が「一人天下」を脅かす好敵手となれば、将棋はさらに面白くなる。竜王戦七番勝負は10月6日から始まる。

(粟野仁雄)

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