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2023年8月20日号
金融 ビッグモーターの債務者区分引き下げなら追加融資厳しく
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 自動車保険の保険金を不正請求していた中古車販売大手ビッグモーター(東京)が混迷を深めている。7月26日付で創業者でオーナーの兼重宏行社長(71)や長男の兼重宏一副社長(35)が辞任、和泉伸二専務(54)が社長に就き、事態の収拾に当たっているが、内部告発も相次ぎ、国土交通省も立ち入り検査に入った。

 こうした中、取引銀行である三井住友、三菱UFJ、みずほの3メガバンクは債務者区分の見直しに動いており、これまでの「正常債権」から「要管理債権」に2段階引き下げる方向だ。「債務者区分では要注意債権までは追加融資が可能ですが、要管理債権まで引き下げられれば追加融資ができなくなり、ニューマネーの供給は断たれます」(メガバンク幹部)とされる。

 主力取引銀行である3メガバンクと広島銀行が問題視するのは、同社のガバナンスの杜撰(ずさん)さだ。「ビッグモーターは取締役会が開かれず、議事録もないことに驚いた。コンプラ担当役員もいなかった。もはや会社の体をなしていない」(メガバンク幹部)と呆(あき)れる。

 ビッグモーターの借入金は2022年9月期で約600億円に上る。年間売り上げは約5800億円あり、借り入れ負担率は高くはない。しかし、信用が失われた今、中古車の買い取り・販売の大幅減少は避けられず、不正の根幹である車検・修理については業務停止や免許剥奪の可能性もある。

「銀行の追加融資が途絶えれば、在庫として抱える中古車を売却して資金繰りをつけるしか道はない。それが尽きればサドンデスとなろう」(大手信用情報機関幹部)と先行きは厳しい。

 それでも取引銀行が「破綻懸念債権」まで債務者区分を引き下げないのは、同社が保有する土地・店舗を担保として押さえているためだ。土地・店舗の多くは宏行氏が代表を務める資産管理会社「ビッグアセット」の所有となっている。

 一方、損害保険会社とビッグモーターの関係も問題視されている。金融庁は関係する損保7社に保険業法に基づく報告徴求命令を出した。ビッグモーターが取り扱う保険料は自賠責と任意の自動車保険合計で年間約200億円に上る。特に主力3損保はビッグモーターに、これまで社員を出向させており、損保ジャパンは11年から計37人を派遣していた。出向者について、「損保側が不正に関与することは一切ない」(宏行前社長)と明言したが、「損保ジャパンは保険代理店契約の幹事社を務めており、出向者は自動車保険の不正請求が横行していた時期に焦点となる修理部門の担当部長を務めていた」(金融庁関係者)と関係は深い。

 さらに、損保各社はビッグモーター社員による内部告発を受けて22年6月に事故車の紹介を停止したが、唯一、損保ジャパンは翌月に紹介を再開した。損保ジャパンは現場で「不正の指示があった」と知りながら紹介を再開した可能性があり、金融庁は重点的に調査する方針だ。損保ジャパンも社外弁護士による調査委員会を設置し、調査することを決め、損害賠償請求を行う準備にも入った。

 損保各社は、ビッグモーターとの保険代理店契約を解除する意向だ。銀行の新規融資が途絶え、保険代理店契約も解除されれば、ビッグモーターの命運は尽きかねない。

(森岡英樹)

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