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2023年8月 6日号
社会 検察が袴田事件の有罪立証へ 発生から57年も再審長期化へ
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 1966年に静岡市(旧静岡県清水市)で一家4人を殺したとして強盗殺人罪で死刑が確定した袴田巖さん(87)について、静岡地検は今後開かれる再審公判で有罪立証する方針を明らかにした。審理の長期化が懸念され、弁護団は「再審請求審の蒸し返しに過ぎない」(小川秀世事務局長)と反発を強めている。

 静岡地検は理由について7月10日、1年以上みそ漬けされた5点の衣類の血痕に「赤みが残ることは何ら不自然ではない」などとしている。3月の再審請求審の東京高裁決定は、「みそに漬かった血痕は黒褐色に変わり赤みは残らない」とする弁護側の実験を無罪を言い渡すべき新証拠と認めた。一方、「赤みは残る」とする検察側の実験の信用性は否定し、5点の衣類は捜査機関により捏造(ねつぞう)された可能性が極めて高いと指摘していた。

 姉・ひで子さん(90)は記者会見し、「検察はとんでもないことをするだろうと思っていた。しょうがない。検察の都合ですから。裁判で最終的に勝っていくしかない。頑張ります。57年も戦ってますからね。2年や3年が何ですか」と気丈に話した。再審決定を受け、検察側は最高裁への特別抗告を断念しており、再審公判は早期決着かと思われていた。しかし、検察が「揺り戻し」た形だ。

 弁護団は7月18日、「刑事裁判公開が原則、誰でも傍聴できる公判にすべきである」とし、裁判所、検察庁、弁護団による非公開の三者協議を打ち切り、公判に切り替えるよう静岡地裁に申し立てた。角替清美(つのがえきよみ)弁護士は「忌憚(きたん)なく意見が言える場として三者協議を受け入れてきた。しかし、検察は何を聞いても『言えない』『言えない』ばかりで協議を続けるメリットはない。即刻、公判に切り替えるべき」と説明。ともに「(拘禁症状の影響で)とても出廷できない袴田さんについて、検察は『中立的な医師の診断書』まで求めてきた。難癖をつけて引き延ばしたいだけ」と憤る。

 7月18日には、同日に静岡地検のトップに就任した山田英夫検事正は記者会見で「法と証拠に基づいて立証を行うのは当然で、(再審請求審の)蒸し返しには当たらない」などと述べた。一方、同19日の三者協議で弁護団は9月の次回協議を初公判に切り替えるよう求めた。だが、静岡地裁は警備上の理由やほかの裁判との調整に時間が必要などとして、次回も三者協議を続けることになった。

 袴田事件の審理では最高裁が「血痕の色調の変化」に争点を絞ったことで、「赤みが残らないなら袴田さんの犯行ではない」が、いつの間にか「赤みが残るなら袴田さんが犯人」にすり替わってしまった印象がある。仮に赤みが残ったとして、袴田巖さんが犯人であるということにならないことは、多くの証拠からも明らかだ。過去に死刑確定後、再審公判が開かれた4人は、いずれも無罪となっている。袴田さんにも、無罪が言い渡される公算が大きい。果たして検察は、何に「こだわっている」のだろうか。

(粟野仁雄)

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