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2023年7月 2日号
社会 将棋連盟会長に羽生善治九段 「にらみ」をきかせる相手は?
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 国民栄誉賞の受賞者であり、将棋界の「レジェンド」である羽生善治九段(52)=永世七冠資格=が日本将棋連盟のトップ、会長に就任した。6月9日の記者会見では「諸先輩の方々が必死の思いで約100年間の歴史を紡いできた。伝統を次の世代にいい形で繋げたい」などと抱負を語った。前会長の佐藤康光九段(53)の後任として棋士総会と理事会で選出された。任期は2年だ。

 来年、創立100年を迎える将棋連盟にとって「大仕事」の一つが、二つの将棋会館の移転である。大阪市福島区の関西将棋会館は大阪府高槻市に移転。大山康晴十五世名人(故人)の悲願で建てられた現在の将棋会館(東京都渋谷区千駄ケ谷)も、すぐ近くに建てられる千駄ケ谷センタービルへの移転が決まっている。

 羽生は理事選に初めて立候補し、4月の予備選挙で初当選していた。自らの恩師で連盟会長も務めた二上達也九段(故人)などへの想(おも)いから、「今後の将棋界への貢献を考えていた」という。大山十五世名人、谷川浩司十七世名人など、連盟会長職は歴代の名人も務めてきた。

 とはいえ、大山時代などに比べて会長の仕事は格段に増えている。名人戦をはじめ八つあるタイトル戦、さらに女流タイトル戦も全国各地で行われるが、前夜祭から駆け付けなくてはならないのが慣例だ。谷川十七世も佐藤九段も現役を続けながらの大役だったが、「自己の将棋の対局準備や研究などしていられないのでは」と思われる激務だ。

 さらに、どんな名棋士も一度、連盟会長になると思わぬ事態に巻き込まれることもある。谷川十七世は将棋ソフトの不正使用疑惑への対応で混乱を招いたとして、17年1月に辞任した。ソフトの不正使用を他の棋士から指摘された三浦弘行九段を出場停止処分にしたが、その後に第三者調査委員会が「不正行為をしたと認めるに足る証拠はない」と判断。将棋連盟の対応が誤りだったことを認め、責任を取って身を引いたが、トップとして身の処し方を問われることもある。

 今年、羽生新会長が耳目を集めたのは藤井聡太7冠(20)に挑戦した王将戦七番勝負だろう。1月、静岡県掛川市での第1局の前日、子どもたちの対局を2人が見回るイベントも取材した。立ち止まっては彼らの対局を熱心にのぞき込む羽生の、手や口を出してやりたくてたまらなそうな優しい眼差(まなざ)しが印象的だった。

 将棋界は今、最年少名人を射止め、王将、竜王、王位、叡王、棋王、棋聖の7冠を保持する「藤井人気」の中にある。全国では「将棋で町おこしを」とばかりに、タイトル戦などの誘致を全国の市町村が競う。そんな事情も踏まえ、羽生新会長も「地方自治体との連携を深め、活性化のお手伝いができたら」と意気込む。

 羽生新会長の〝相手〟は昨今の将棋人気をどこまで維持し続けられるかだろう。これを一時の「藤井バブル」に終わらせないよう、子どもの対局をのぞく「柔和さ」で地域との連携も図っていけるか。ともに、時には「羽生にらみ」もきかせて、将棋連盟の舵(かじ)取りをしていってほしい。

(粟野仁雄)

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