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2023年6月25日号
金融 「クックパッド」社長が交代へ 創業者復帰で危機回避なるか
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 レシピ情報サービス「クックパッド」は創業者の佐野陽光氏が10月1日付で社長に復帰する。現社長の岩田林平氏は取締役として残るが、経営責任をとって社長を退く。

 クックパッドは2期連続で最終赤字になるなど経営不振が続く。5月12日に発表した2023年第1四半期決算も、売上高が前年同期比4・7%減の21億8900万円、連結最終損益は16億3000万円の赤字(前年同期は5億4000万円の赤字)と赤字幅が拡大した。売上営業損益率は前年同期のマイナス26・9%からマイナス78・2%に急激に悪化している。

 このため、一部広告事業や新規事業など売上収益の12%にあたる事業の廃止を決め、海外事業も見直す。社長交代についてクックパッドは「サービス開発を加速するため新たな経営体制に移行する」としている。

 日本最大の料理コミュニティーサイトとして各地の伝統的な料理から西洋料理までを作るためのレシピの検索や投稿の場として、22年12月時点で月間約5100万人が利用するという巨大サイトのクックパッド。何が起こっているのか。

 佐野氏は1973年、東京都生まれ。建設会社に勤務していた父親の転勤によりシンガポールで8年、米ロサンゼルスで4年間を過ごし、ロサンゼルスの高校を卒業した。長期の海外暮らしでの不自由で不規則な食生活や生活習慣がきっかけとなり、食の大切さや「料理が家族を幸せにする」といった信条を持つに至った。帰国後の93年に慶應義塾大環境情報学部に入学し、97年に卒業した。すると企業に就職せずに、同年10月にクックパッドの前身の有限会社「コイン」を同学部がある神奈川県藤沢市に設立。当時は「まぐまぐ」でアルバイトしていたが、99年からサイト名を「クックパッド」へと変更した。

 一方、佐野氏は小学校時代からコンピューター「MSX」「FM77AV」に触れてきた。大学では軽自動車「スバル360」を改造したり、古いスクーターを電動にしたり、機械やコンピューターについては豊富な知識があり、クックパッドでもエンジニアの採用を積極的に行っていた。

 2012年に社長を譲り、一線を退いた。その後、同社は結婚式場の口コミサイト「みんなのウェディング」ほか、レシピブログのプラットフォームを提供する米「キューカンバータウン」を買収した。しかし、16年には当時の経営陣と経営方針で対立し、株主提案で自らを除く経営陣の刷新を要求。前社長の穐田誉輝氏らが経営から外れ、岩田氏が社長に就いた。この時に創業時を支えた部長クラスら優秀な人材が大量に流出。今の業績低迷の一因はここにある。

 だが、「より根本的な要因は、クックパッドの後を追うように登場した料理サイトに競争力を奪われたことにある」(金融市場関係者)とされる。筆頭がベンチャー企業「dely」が運営している「クラシル」(堀江裕介社長)の台頭だ。

 クラシルは16年に誕生したレシピ動画サービスで、レシピ動画数は国内トップを誇る。違いは「クラシルは料理のプロが考案したレシピを提供しているのに対し、クックパッドは誰でも投稿可能。クラシルは動画、クックパッドは主に文章でレシピを紹介している」(金融市場関係者)。棲(す)み分けもできそうだが、創業者社長の復帰でクックパッドは危機を回避できるか。

(森岡英樹)

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