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2023年5月 7日号
社会 便利すぎたから混雑招いた!? 京都で来年廃止「バス1日券」
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 京都市は観光客に好評だった市バスが1日乗り放題になる「バス1日券」を2024年3月末で廃止することになった。「バス1日券」は市内へのマイカーの観光客が増えたことによる交通渋滞の回避策として、1995年から導入されていた。

 発売額は大人700円。市バスは1回が均一運賃で230円なので1日4回以上乗れば「おつり」が来る計算で、市バスだけでなく民間バスでも使えた。京都市内の地下鉄は東西と南北に十字に走る路線があるだけだ。一方、バス路線網は充実しており、多くの観光名所を巡れるため、バス1日券は人気があった。

 ところが、コロナ禍前のインバウンドで外国人観光客が押し寄せる「オーバーツーリズム」により、バスが大混雑した。特に紅葉や桜のシーズンはバス停に長蛇の列ができたり、満員のバスがそのままバス停を通過したりすることが増えた。このため通勤などに利用していた住民らから、市に苦情が殺到していた。

 バス1日券は16年には638万枚の最高記録を販売。市の18年の調査では、京都市民ではない観光客らの購入が9割を占めていた。市も発売額を当初の500円から600円、700円と値上げしてきた。コロナ禍もあり、しばらく大混雑は問題にならなかったが、昨秋ごろからコロナ禍が落ち着き、政府の「全国旅行支援」もあり、市内には観光客が急速に戻っている。

 そんな中、市は再度の運賃値上げも検討した。しかし、「観光客がハイペースで戻っている中、混雑対策は急務。値上げでは追い付かず、抜本的な対策として思い切ってバス1日券の廃止に踏み切りました。今後は観光客に人気の路線の本数を増やすなどしたい」(市交通局企画調査課)。とはいえ、1日バス券は観光客だけが使っていたわけではない。「通勤ではないですが、市内で2、3カ所の用事を足す時などにも、1日バス券はとても重宝していたのに......」と残念がる市内在住の60代女性もいるのも事実だ。

 市は今後、観光客らには地下鉄とバスが乗り放題になる既存の大人1日1100円の「地下鉄・バス1日券」を薦める方針だ。コロナ禍からの利用客数の回復が思わしくない市営の地下鉄に観光客を誘導するのが狙いの一つだ。「安価な1日バス券のため、ほかの公共交通機関が使われなかった。地下鉄は速いので、バスとうまく組み合わせていただければ効率的な観光ができると思います」(同課)

 市では、これにより地下鉄は年間で2億9000万円、バスは1000万円の増収になると試算している。一方、コロナ禍による乗客減でバスと地下鉄の運賃収入の合計は、21年度が338億円で、コロナ禍前の19年度の459億円に比べ、26%も落ちていた。

 なお、バス1日券の利用は来年3月末まで可能だが、販売は今年9月末で終了する。市は「秋の紅葉シーズンまでに販売を終えないと、中国人観光客などが本格的に戻って大混雑が再来しかねない」(同課)。

 だが、いわば秋の観光シーズン直前の販売終了。コロナ禍での地下鉄やバスの減収ぶりも考えてみると、バス1日券の廃止は単なる混雑緩和だけが目的ではないようだ。

(粟野仁雄)

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