サンデー毎日

政治・社会
News Navi
2023年4月30日号
金融 朝日生命が再びの「海外進出」 ベトナムに32年ぶり現地法人
loading...

 朝日生命保険は、ベトナム現地法人「朝日ライフコンサルティング・ベトナム」を3月15日付でホーチミン市に設立。4月より業務を開始した。朝日生命が海外に拠点を設けるのは2008年以来で、海外の現地法人の設立は実に32年ぶりだ。ベトナム現地法人では、ベトナムでの保険販売に関するテレマーケティングなどのコンサルティングと市場調査を手掛ける。

 この報道に心を揺さぶられたのは朝日生命関係者だけではないだろう。生命保険業界を含む金融界に身を置いたことのある人、身を置いている人、そして筆者にも感慨深いものがある。1990年代後半から2000年代初頭にかけて吹き荒れた金融危機、そして生命保険業界の塗炭の苦しみが蘇(よみがえ)ってくるためだ。

 1999年6月、バブル崩壊の痛手が甚大だった東邦生命保険が経営破綻した。次いで2000年10月には名門の千代田生命保険が破綻する。いずれも本社が渋谷周辺にあったことから、「渋谷グループ」と呼ばれた2社の経営破綻は、業界を震撼(しんかん)させた。市場では「次に破綻する生保はどこか」という疑心暗鬼が蔓延(まんえん)し、生保各社の契約者にも動揺が広がった。

 そうした市場の矛先が向かったのが大手5社の一角を占める朝日生命だった。顧客の動揺は保険の解約につながり、資金繰りが懸念される状況にまで発展した。そこで朝日生命は00年9月、東京海上火災保険と日動火災保険(現東京海上日動火災保険)とともに、生損保と系列の枠を超えて経営統合を視野に入れた保険グループの構想を発表し、再編に打って出た。01年1月には新保険グループを「ミレア」と決めたと発表し、朝日生命は株式会社へ転換後の04年にも東京海上日動火災保険と合流して経営統合する見通しとなった。

 しかし、02年に入り、朝日生命と東京海上との意見相違が表面化。朝日生命は並行して同じ古河グループを源流とする親密先の第一勧業銀行(現みずほ銀行)と、あさひ銀行(現りそな銀行)等へ相互会社基金の増額(増資)を要請した。そして、03年1月、ミレア保険グループとの経営統合を白紙撤回し、単独での生き残りを模索することになる。朝日生命は団体保険分野から事実上撤退し、個人保険分野へ経営資源を集中し海外からも撤退した。この間、筆者の取材によると、金融界では朝日生命をみずほホールディングス(現みずほフィナンシャルグループ)傘下に入れる救済案が描かれていた。実現すれば銀行、信託、証券、保険を包括する金融グループの誕生となっていた。しかし、結局、幻の構想に終わった。

 あれから20年の歳月が流れた。そして、今回の海外現地法人の設立である。

 これまでの朝日生命の経営者、社員の頑張りを見てきた筆者にとって胸に迫るものがある。「保険王プラス」という超ヒット商品を生み、医療・介護といった第3分野で躍進している。

 支えたのは営業現場で顧客と接する女性を中心とした社員であり、本部のサポートだった。そして朝日生命を復活させた最大の要素は「顧客の信頼」だったように思う。人に人格があるように、朝日生命の社風にはハートがあった。

(森岡英樹)

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム