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2023年4月 2日号
社会 タイトル通算100期はお預けも王将戦「若さ」輝いた羽生善治
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 羽生善治九段(52)が藤井聡太王将(20)に挑んだ将棋の王将戦七番勝負(主催・毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社)は3月11、12の両日、第6局が佐賀県上峰町の大幸園で指され、藤井が羽生を88手で破り、対戦成績を4勝2敗として王将位の初防衛に成功した。8大タイトルのうち2017年創設の叡王を除く七つで「永世」などの称号を持つ「永世七冠」の羽生と、数々の最年少記録を塗り替え、3月17日現在では王将に加えて竜王、王位、叡王、棋聖も保持する「最年少五冠」とのタイトル戦初対決は、「世紀の七番勝負」とも称された。羽生は敗れて「タイトル通算100期」はお預けになったが、若々しい将棋は十二分に存在感を見せつけた。

 互いに先手番を制し、羽生の2勝3敗で迎えた第6局は、羽生が先手番で「角換わり相早繰り銀」という戦法で両者が激突した。初日の午後6時に羽生が手を封じ、翌朝に開封された手は「3四銀」。だが、藤井は中央の玉を左右で桂馬と金が広く守っていたのに対し、羽生は左右が分裂した「悪形」に。その後も羽生は劣勢を覆せず、持ち時間8時間のうち、互いに1時間以上残して2日目の午後4時前に羽生が投了。完勝した藤井は王将位の防衛でタイトル戦の連勝記録を12に伸ばした。

「考えても分からない局面が多くて奥深さを感じた。盤上に没頭して指せた」と振り返った藤井。番勝負で初めて手合わせした羽生の印象は「8時間(持ち時間)の長い将棋を6局指せた。羽生先生の強さ、自分の課題も感じた」と話した。

 羽生の感想戦で聞こえた声は「何かやれたかなあと思ったんですけど。これをやるしかなかったんですかねえ」などがほとんど。20年竜王戦以来のタイトル戦となった今回の七番勝負に対しては「(6局通して)いろいろやってみたが、全体的に指し手の精度を上げていかなくては」と反省の弁を述べた。藤井について「いろいろな変化、読み筋がたくさん出てくる。対局して大変だったが勉強になった」と評価した。

 名人9期、王将12期、竜王7期、王位18期、王座24期、棋王13期、棋聖16期と既に前人未到の「タイトル通算99期」を果たしている羽生。「通算100期」に向けた挑戦は、今回で5回目だったが、またも足踏みとなった。

 とはいえ、羽生は今季の王将戦で挑戦者決定リーグを全勝突破。14期ぶりの復位を目指した七番勝負も、一手損角換わり、相掛かり、雁木、角換わり腰掛け銀、横歩取り、角換わり相早繰り銀と、全6局を全て違う戦型で戦った。豊富な経験に頼るだけではなく、大胆に新戦略を試して32歳も年下の「最強棋士」に挑み、攻めの姿勢を崩さない若々しい将棋を見せてくれた。

 通算100期については「自分の至らないところを改善して臨みたい」と前を向いた。これまでタイトル戦で藤井から2勝を挙げたのは名人などタイトル通算6期の豊島将之九段(32)と、3月の名人戦・順位戦で敗れはしたが、プレーオフまで持ち込んだタイトル同2期の広瀬章人八段(36)だけだ。「レジェンド」羽生の戦いは後輩たちの刺激にもなるだろう。ともに「100期再挑戦」がまたまた楽しみになってきた。

(粟野仁雄)

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