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2023年3月19日号
金融 ソフトバンクGの孫正義氏が肝煎りのSBエナジー売却へ
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 孫正義氏が肝煎り事業の売却に動いた。孫氏が会長を務めるソフトバンクグループ(G)の100%子会社で、再生エネルギー事業を手掛けるSBエナジーを、大手商社の豊田通商へ売却すると2月9日に発表した。4月以降、SBエナジーの株式85%を豊田通商が取得するもので、残る15%はソフトバンクGが引き続き保有する。取得額は非公表だが、数百億円規模とみられる。

 SBエナジーは、2011年の東日本大震災に伴う福島第1原発事故に衝撃を受けた孫氏が、太陽光発電など再生エネルギーにシフトさせ、東北復興の起爆剤にしようと巨資を投じて設立した。社長には大手商社の三井物産で長年、資源・エネルギー案件に携わってきた三輪茂基氏を招いた。

 また、当時の民主党政権で再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)があったこともソフトバンクGの背中を押した。だが、本体の業績悪化で背に腹は代えられないのか、事実上の身売りだ。

 ソフトバンクGが2月7日に発表した23年3月期第3四半期決算(連結)は、22年4〜12月の累計売上高が4兆8758億円、投資損失が1兆3612億円、純損失が9125億円の赤字に沈んだまま。損失額は第1四半期を底に改善しているが、「市場は非常に不安定な状況が続いており、まだまだ楽観視できる状況にない」(後藤芳光最高財務責任者)。

 同社が重視する保有株式の価値から純負債を引いた「時価純資産」は13・9兆円と十分な水準で、純負債を保有株式の価値で割った「LTV」と呼ぶ指標も18・2%と低位で、手元流動性資産も3・8兆円と厚い。ただ、昨年8月には「お宝」の中国IT大手アリババグループの株式を一部売却し、4・6兆円の利益を計上すると発表するなど資産売却が続く。

 孫氏は昨年11月の22年9月期決算説明で「守りに徹するため、攻めの男である自分は当分の間(決算発表に)関わらない」と宣言。今後の決算発表は後藤氏に任せると表明し、「数年の間(英半導体大手)アームの爆発的な次の成長に私は没頭する」と強調した。

 ソフトバンクGはアーム買収後、米半導体大手エヌビディアとの合併を進めようとした。だが、英国など複数の政府から認可が下りず断念した。孫氏が言う「アームの爆発的な次の成長に私は没頭する」とは何を指すのか。単純に「上場して利益を得る」ことだけが目標とは思えない。

 アームは半導体設計で圧倒的なシェアを持つ。「ものすごい技術革新がある」(孫氏)と指摘するように高い収益力も保っている。昨年10月にはアームとサムスン電子の戦略的な提携について話し合うため、孫氏は韓国を訪問した。アームの「爆発的な次の成長」に向け、壮大な絵を描いているようにも見える。

 だが、アームに心血を注ぐ背景には、傘下の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」の目を覆う惨状がある。AIなど新興企業に投資するSVFは昨年9月末時点で約470社に投資しているが、世界的な株安の影響を受け「今の情勢は上場株であれ、未上場株であれ、投資していた会社はほとんど全滅に近い成績になっている」(孫氏)とされる。ソフトバンクGはまだ守りの時期にある。孫氏の胸中はいかに。

(森岡英樹)

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