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2023年3月19日号
社会 大阪高裁も再審開始決定支持 父獄死「日野町事件」息子の涙
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「書記官が口頭で『本件抗告を棄却する』と読み上げてくれた瞬間、机に突っ伏して泣いてしまいました」

 そう言いながら、大柄な阪原弘次さん(61)は決定後には笑みをこぼした。

 1984年12月、滋賀県日野町で酒店の女性店主(当時69歳)が殺されて金庫が奪われた「日野町事件」。弘次さんらは、強盗殺人罪で無期懲役が確定し、服役中の2011年に75歳で病死した父弘さんの無実を訴えてきた。その再審請求審で大阪高裁(石川恭司裁判長)は2月27日、大津地検の即時抗告を棄却し、再審開始を認めた大津地裁の決定を支持した。地裁は18年に再審開始決定を出していた。

 今後の焦点は大阪高検が最高裁に特別抗告するかどうかに移る。一方、死刑や無期懲役事件で「死後再審」の開始が確定すれば戦後初めてとなる。

 決定は、弁護団が新証拠とした遺体発見現場での「引き当て捜査」の写真ネガを重視した。警察が「犯人しか知り得ない」として根拠にした写真だが、ネガには弘さんが被害者に見立てた人形を持ったものと持っていないものが交互に存在。人形を使った場合と使わない場合の再現を交互に繰り返し、警察が事前に教えて練習させていた疑いが持たれた。また、犯行時間帯に「弘さんが友人の家にいた」というアリバイを語ってくれた人の証言録画も新証拠に認められた。

 弁護団は「決定は取り調べの任意性より信用性を重視した」としている。伊賀興一弁護団長は「再審を願う元被告の家族の思いが裁判官に届いた。届いていると確信していたから、開始決定をせかすことはしなかった」と打ち明けた。

 弘次さんと妹美和子さん(59)は3月1日、事件現場のすぐ近くにある弘さんの墓へ報告に行った。弘次さんは「お父ちゃん、再審開始出たで、もうちょっとがんばろな」と手を合わせ、「お父ちゃんの体を拭くように(墓石を)拭いた」という美和子さんも続いた。

 弘さんは、滋賀県警の取調官に自白をしなかったら、「娘の嫁ぎ先をガタガタにしたろか」と脅され、屈したことを弘次さんや弁護団に明かしていた。美和子さんは「父は私と妹を守ろうとして刑務所に入ることになってしまった。無罪を報告しないと合わせる顔がない」と話した。

 この事件、1審で大津地裁の裁判官が、大津地検の担当検事に起訴状の変更(予備的訴因の追加)を持ちかけていた。犯行時間帯を午後8時40分ごろから「午後8時過ぎごろから翌日午前8時半ごろまでの間」とする拡大や、殺害場所を日野町内から「日野町内とその周辺」とぼやかすなど、大幅な予備的訴因変更が認められた。この事実は後日、『毎日新聞』がスクープし、地検側は認めたが裁判官側は沈黙している。日野町事件は裁判所までが有罪に向けて検察を誘導し、冤罪づくりに「加担」したとも言える事件なのだ。

 弘さんの妻つや子さん(85)が元気なうちに弘さんの再審無罪が言い渡されなくてはならない。検察の最高裁への特別抗告は言語道断である。

(粟野仁雄)

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