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2023年3月12日号
交通 「江ノ電」が71年も守ってきた「12分間隔」ダイヤ変更のワケ
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 神奈川・湘南の藤沢―鎌倉の10㌔を走る江ノ島電鉄(本社・神奈川県藤沢市)が3月18日から、「12分間隔」から「14分間隔」にダイヤを変える。JR東海道線・小田急江ノ島線の藤沢駅と、JR横須賀線の鎌倉駅を結ぶ通称「江ノ電」は、上りも下りも12分ごとに各駅にやってきていた。それが約14分ごとになると、各時きれいに5本が並んでいた時刻表の数字も不ぞろいになる。

「江ノ電の藤沢駅なら朝6時から夜8時まで、発車時刻は正時から12分ごと、0、12、24、36、48分という具合です。覚えやすいから時刻表を持ったり、見たりする必要はない。そうなると朝の通学時間帯、小田急の藤沢に着いた時間で、江ノ電まで走るか、歩くかが決められる。それが便利だったのに......」

 こう力説するのは、沿線の高校に通った男性会社員だ。沿線に住んで十数年になる群馬県出身の女性も「ここら辺は12分間隔で動いている」。ともに江ノ電利用者に共通の思いだろう。

 江ノ電は江の島や鎌倉大仏など観光路線でもある。黒澤明監督の映画「天国と地獄」(1963年)、日本テレビ系ドラマ「俺たちの朝」(76年)をはじめ、映像作品にもしばしば登場する。映画も大ヒット中の漫画『スラムダンク』には、鎌倉高校前駅付近が登場しており、「アニメの聖地」として人気だ。訪れる海外からの訪日観光客も多い。レトロ調の車両や海沿いの風景そのものが観光目的の一つとなっている。

 12分間隔ダイヤも「名物」といえた。全線が単線の江ノ電は駅で上り列車と下り列車を行き違う必要がある。列車の性能をそろえ、行き違う駅を等間隔に配置しないと、上下とも1時間5本の高頻度運転はできない。

 全15駅のうち、行き違い可能駅は鵠沼、江ノ島、稲村ケ崎、長谷の4駅。そこに、かつて駅だった峰ケ原信号場の行き違い設備を残し、全て駅で12分間隔になるダイヤを作った。これが1952年で71年間にわたり、12分間隔ダイヤを維持してきた。

 新しい14分間隔ダイヤは1日に上下154本の列車を運行する。12分間隔ダイヤでは上下181本で27本の減便となる。江ノ島電鉄は「コロナ禍でリモートワーク、リモート授業が浸透し、鉄道の利用実態が変化しました」としている。また、「路面電車」となる腰越駅付近の道路供用区間の混雑で遅延も多いため藤沢、江ノ島、稲村ケ崎、鎌倉の各駅で列車の停車時間を増やし、ダイヤにゆとりを持たせたという。

「今後の生活スタイルはコロナ禍前の水準には戻らないと考えていますが、お客さまのご利用動向や社会情勢を考慮して検討する場合があります」(江ノ島電鉄)

 同社も悔しいはず。71年間も先達が維持してきたダイヤを崩すのだから。ただ、新ダイヤでも必要な車両数は変わらないという。車両が減らない限り12分ダイヤに戻れる。そこに希望をつなぎたい。

(杉山淳一)

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