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2023年3月12日号
社会 「身を切る」より「木を切る」? 大阪市の「1万本伐採」が物議
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 大阪市内で街路樹などが説明なしに次々と切られ、住民が反発している。松井一郎市長(日本維新の会顧問)のスローガン「身を切る改革」が、SNSなどで「木を切る改革」と揶揄(やゆ)されている。

 東住吉区では昨年暮れ、立派なイチョウ並木に突然、「この木は撤去を予定しています」と書かれた紙が張られ、あっという間に伐採された。西区の土佐堀通りでも並木が切られ、住民は「説明もなしに切られた。街路樹が消えて街並みが殺伐とし、歩道が真夏に灼熱(しゃくねつ)にさらされる」と怒る。

「東京に比べて緑がない」と言われた大阪市は、1960年代から植樹に力を入れた。しかし、倒壊の危険のある老木が増えた。大阪市は「安全対策事業」名目で来年度にかけて街路樹や公園樹など約1万本を撤去するとする。既に2018年度から20年度までに9000本を撤去したが、植え直しは6割にとどまる。

 甲南大マネジメント創造学部の谷口るり子教授(教育工学)が伐採データを市に情報公開請求すると、伐採理由を公園樹は1本ずつ書き、街路樹は「通り別」に理由を書いていた。

 谷口教授は「公園から歩道に枝が伸びている理由で伐採している。民家に伸びているのではなく、歩道に出ているだけなのに。根が上がり、押し上げられた縁石が破損したからと伐採したのもある。石を動かせばいいのでは」と疑問を呈する。さらに伐採理由には、「落ち葉で滑る」「木の間隔が密だから」というものや、「伐採するための道を確保するために伐採する」という笑い話のようなものもある。

「大阪市は『公園樹木のヒマラヤスギは根が浅くて倒れやすい』との理由で、弱っていなくても全部伐採する方針です。しかし、他の自治体でそんなことは聞かない」(谷口教授)

 伐採問題を毎日新聞が大きく報じた翌日の2月17日、市議会の建設港湾委員会で街路樹と公園樹の伐採に関する陳情書が取り上げられた。市は来年度から伐採理由を市のホームページに公開するとしたが、住民が求める説明会には応じない。

「理由を一方的に報告して説明会にも応じずに伐採を強行するのでは、ホームページ公開だけしても無意味」(同)

 市の公園樹と街路樹に関する維持管理費は約9億5000万円で、12年度以降ほとんど変わっていない。しかし、人件費高騰などで管理できる本数が激減した。管理が難しくなり、伐採を進めているのではないか、という疑念も漂う。しかし、市は「予算不足が理由ではなく安全対策」(建設局公園緑化部)としている。

 大阪城公園では商業施設建設のために約1200本の樹木が切られた。谷口教授は「国土交通省は近隣住民が無料でゆっくり過ごす場だった公園を、賑(にぎ)わいを作り稼ぐ場に変えることを推奨し、その過程で公園の木も大量伐採されている。東京の神宮外苑も木の伐採が問題になっていますが、大阪城公園の伐採は話題にもならなかった」と語る。

 橋下徹市長以来の「維新政治」は、土地というのは金を生み出す場でないと価値がないと見ている印象だ。「初めに伐採ありき」は稼ぐには樹木など無価値ということか。

(粟野仁雄)

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