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2023年2月19日号
社会 神戸市が王子公園に大学誘致 市街地の「憩いの場」の今後は
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 神戸市が大学を誘致している王子公園(灘区)について、学校法人関西学院(本部・兵庫県西宮市)が手を挙げるとみられている。

 1889(明治22)年に創立の関西学院は、1929(昭和4)年に西宮市上ケ原に移転するまで40年間、「原田の森」と呼ばれた王子公園一帯にキャンパスを置いていた。阪神・淡路大震災が起きた95年には同県三田市にも神戸三田キャンパスを設けている。

 神戸市の久元喜造市長は2021年1月、「王子公園に大学を誘致したい。地域ブランドの向上に資するような再整備で、若者を呼び込みたい」と表明していた。摩耶山系の斜面に広がる約19㌶の同公園は、阪急王子公園駅と隣接し、利便性もよい一等地にある。パンダが人気の動物園や遊園地、テニスコート、王子スタジアム、体育館、屋外プール、相撲場があり、桜の名所でもある。市は昨年12月にスタジアムを公園北側に移転・新築し、跡地に大学を誘致する方針を公表。約3・5㌶の対象地を約100億円で大学側に売却する。

 王子公園を巡っては以前、神戸市外国語大(西区)が水面下で市と折衝していたが、面積や金銭面で折り合いが付かなかった。一方、関西学院は久元市長の再整備案の表明後、「王子キャンパス構想特別検討委員会」を設置。1月に地元紙インタビューで村上一平理事長が前向き発言をした。しかし、広報担当は「4月28日が申し込みの締め切りと聞いているが、応募は決まっていない。現在検討中です」としている。

 粟原富夫市議は「関学は歴史的な背景もあり、応募せざるを得ないと聞く。一等地に別の大学が来て学生を取られても困るのでしょう。他にも応募を考えている大学があると聞くが関学の可能性が高い。まずは優先交渉権者になって市の提示する『市に貢献するかの条件』に合うか次第」とみる。

 この再整備で緑は大きく削られ、一時は遊園地やプールを廃止する素案が出た。これには「子どもたちの楽しみをなくさないで」(灘区の主婦)、「なんで勝手に公園を大学にするんや」(灘区の商店主)など、住民の反発が強く反対集会も開かれた。結局、遊園地は公園内に再整備されることになったが、プールと相撲場は廃止になる。また、対象地も約4㌶から約3・5㌶に減らされた。市は「市民一人当たり公園面積は広い」としている。しかし、これも人家が少ない山地の森林の公園などを含めているだけともいえる。

 地価高騰で多くの大学は郊外に移転してきた。しかし、近年は学生数が減少し、不便さやアルバイト先がないなどで敬遠され都心部に回帰している。「関学も三田のキャンパスが不人気で都心部に戻りたいのでは」ともささやかれている。もっとも公募対象地はキャンパスごと移転する広さはなく、選定されても大学機能の一部にとどまるだろう。

 久元市長は「少子化が進む中、大学の都心回帰が加速しており、ニーズを捉え、競争力のある大学を誘致する」とする。しかし、市街地の貴重な市民の「憩いの場」が特定の団体の土地にされてよいのか。「大学誘致」名目で巨費をかけてスタジアムを移転する大義もあるのか。果たして成否は。

(粟野仁雄)

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