サンデー毎日

政治・社会
News Navi
2023年2月12日号
社会 司法に「市民の目を入れよう」 元裁判官が傍聴記コンクール
loading...

「裁判はもっと市民の目にさらされるべきもの」

 大阪市の市民団体「裁判員ACT」が裁判傍聴記などを審査するコンクールを立ち上げた。審査委員長を務めるのは元裁判官で大阪弁護士会所属の森野俊彦弁護士(76)だ。

 募集対象は一般と学生の2部門に分け、裁判の傍聴記と裁判員の体験記で、対象となる裁判は民事、刑事を問わない。全体の最優秀賞1点に10万円、各部門の優秀賞(計3点)にはそれぞれ3万円を贈呈する。

 1月に募集を開始し、1年後に結果を発表する予定だ。裁判員ACTは弁護士らの社会人や大学生ら約20人から成る。裁判員制度を巡る裁判の問題点をテーマにした講演活動などを通して、市民へ「裁判に関心を」と呼び掛けてきた。

 2009年から始まった裁判員制度。森野氏は本来なら周囲でも裁判員体験者がいるはずなのに、その体験談が全然聞こえてこない現状を疑問に思っていた。そして「スタートしたころ、『裁判員は守秘義務を破ったら罰せられる』などの報道が多く、裁判員が萎縮して何も語らなくなっている。評議で『誰がどう言った』とかの発言内容や評決数は守秘義務があるが、何も話してはいけないのではない」と強調する。

 また「よく裁判員体験者が『裁判長がとても親切だった』などと話すけれど、これはくせ者です。プロの裁判官が自分たちの決めていた結論に誘導する手練手管の可能性が高い」と指摘。

「裁判員裁判の公判前整理手続きで争点が簡略化されたことなどが他の裁判にも影響し、裁判長が理由もろくに示さず、『被告人の供述は信用できる』などと簡単に片づけられることが増えた」とも危惧する。

 裁判官としては民事を約20年、刑事と家事・少年裁判を各10年担当した森野氏。福岡高裁部総括判事も務めたが、裁判官時代も裁判の在り方について忌憚(きたん)なく意見を言ってきたせいか、出世とは程遠かったという。一方、開かれた司法を目指す裁判官有志の団体「日本裁判官ネットワーク」に参加し、メンバーとして法廷外でも裁判の話題を積極的に発言してきた。

 昨年秋には「後期高齢期に入った記念」(森野氏)で『初心「市民のための裁判官」として生きる』(日本評論社)を上梓(じょうし)。ここでは憲法違反の判決を下した裁判官が冷遇されたり、1970年代に国に批判的でリベラルな活動をする「青年法律家協会」に属した裁判官が任官や再任を拒否された歴史も紹介。そこには「裁判官という職業にも関心を持ってほしい」という願いがこもっている。

 裁判員に対しては守秘義務などを理由に、メディアの自由な取材が難しいのも現実だ。しかし、森野氏は「裁判員を守る名目で裁判所は自分たちを守っている」と皮肉る。そして「裁判員の氏名が伏せられ、裁判員体験者を探し出すのは大変です。選ばれた人は積極的に発言してほしい。裁判員制度になって長いのに制度のことがちっとも話題にされない。裁判所から特権で傍聴席をもらっているマスコミの検証も甘い。長所も短所もあるはずで、傍聴者や裁判員経験者の意見を聞かせてほしい。ブラックボックスになっている日本の裁判を市民の目にさらすべきで、コンクールはその一環です」と訴える。

 募集などの詳細は、裁判員ACTの活動母体である「大阪ボランティア協会」(06・6809・4901)まで。

(粟野仁雄)

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム