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2023年2月 5日号
社会 松井一郎市長の「鶴の一声」で迷いクジラ「淀ちゃん」は海へ
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「海から来たクジラ君ですから、亡くなってしまったら海に帰してあげたい」

 大阪湾の淀川河口付近に迷い込み、死んだのが確認されたクジラについて、大阪市の松井一郎市長は1月17日、死体を沖合に沈める処置を決めた。死体は19日に船で運ばれた紀伊水道沖で重りをつけて沈められた。

 クジラは体長約15㍍、重さ約38㌧のマッコウクジラ。9日午前8時ごろ、淀川河口の阪神高速湾岸線の中島パーキングエリア(大阪市西淀川区)の南約350㍍の海で時折、潮を吹く様子が目撃された。これが報じられると、ネット上などでは「淀ちゃん」と名付けられ、「早く助けて」「海に帰してあげて」などの声が相次いだ。

 大阪港湾局は淀ちゃんを海へ誘導することを検討したが、驚いて暴れてしまう危険や、かえって衰弱することが案じられたため、結局は見守るしかなかった。淀ちゃんは次第に潮吹きも見られなくなり、11日から横倒しになったまま動かなくなり、13日に死んだのが確認された。港湾局職員らのゴムボートが、確認のために近づいてカメラで撮影したり、体に触れたりした。死体は放置すれば船舶の航行に支障を来したり、腐敗が進むと体内にガスがたまって爆発したりする可能性もあった。そのため最終的にはガスを抜いてから船で沖合へ運ばれた。

 淀ちゃんについては、陸に揚げていったん埋設する選択肢もあった。21年7月には大阪府南部の大津川河口にニタリクジラ(体長約11㍍)が漂流。死んだ後に陸揚げし、堺市の産業廃棄物用ヤードへ運んで埋めたが、処理費用は約900万円だったという。こちらは22年12月に掘り起こし、大阪市立自然史博物館が骨格標本にする作業を進めているが、今回は標本としての引き取りの具体的な申し出はなかったそうだ。

 日本鯨類研究所(東京都)によれば、大型のクジラが湾内に入り込んだり浜に打ち上げられたりするケースは、全国で年間20〜30例ほどある。迷い込む原因は寄生虫などの影響で方向感覚がおかしくなったり、餌を求めて迷い込んだり。だが、今回について田村力・資源管理部門長は「迷い込みの原因は諸説あり、はっきりしていないのです。ただ、今回は15㍍の立派なオスのようなので、老衰か病気で衰弱していて流されるままになった可能性が高い」という。

 大海原から突如、人間界に迷い込んだ動物は、時に我々を童心に帰らせ、「助けてあげたい」と優しい気持ちにさせてくれることもある。首都圏では02年に多摩川に現れた子どものアゴヒゲアザラシの「タマちゃん」が人気を集めた。アゴヒゲアザラシの寿命が約20〜30年とされており、もし生きていれば、もう晩年にさしかかっている計算だ。

 1月15日以降、羽田空港近くの東京湾に、本来は北太平洋沿岸に生息するトドが迷い込んで話題に。本稿の締め切りの19日までは元気なようだが、こちらは故郷に帰れるか。そして、迷い込むクジラやトドたちは、なにがしかの海の変化を現しているのか。

(粟野仁雄)

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