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2023年1月15日号
金融 W杯で〝森保ノート〟のコクヨ ぺんてる買収断念後の未来は
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 サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会でベスト16の成績を収めた日本代表だが、森保一監督が試合の合間にメモする小型のノートが注目を集めた。このメモに基づく戦略で優勝経験国のドイツ、スペインを相次いで撃破し、海外では「デスノート」と恐れられた。ノートは文具大手・コクヨのB6サイズの「キャンパスノート」で、SNSで話題となるや、販売店から同社に問い合わせが相次いでいるという。

 キャンパスノートはコクヨが1975年から手掛けるロングセラー商品だ。帰国直後の12月8日には、森保監督は岸田文雄首相と会い、その際ともにノートを愛用していることから、互いにサインを書き込んで交換する一幕もあった。

 コクヨは〝森保ノート〟の盛り上がりに対し、「大きな驚きを覚えるとともに、純粋にありがたいという気持ち」として、森保監督用のオリジナルノートを作製し、プレゼントする検討を進めている。デザインは日本代表のエンブレムの八咫烏(やたがらす)やブルーのユニホームをベースとしたものなど複数が検討されている。

 こうした明るい話題の半面、コクヨの経営は少子化やコロナ禍もあり、厳しさを増している。昨年9月末には文具大手・ぺんてるの買収を断念。コクヨが保有していたぺんてるの株式(約46%)を同じく文具大手・プラスに全て売却することを決めた。これでコクヨによるぺんてる買収構想は完全についえたことになる。

 発端はぺんてる内部のお家騒動にあった。2012年に創業家と生え抜き幹部の確執が表面化。創業家は保有するぺんてる株を投資ファンドに売却し、その株式をコクヨが取得することで買収する構想が持ち上がった。この買収構想にぺんてるの生え抜き経営陣が強く反発。対立が深まる中、コクヨは敵対的なTOB(株式の公開買い付け)によるぺんてる子会社化という強硬策に出た。これに対し、ぺんてるはホワイトナイト(白馬の騎士)としてプラスを引き入れ対抗した。

 業界最大手のコクヨが、なぜ、売上高が8分の1にすぎないぺんてるに触手を伸ばしたか。

「国内市場が縮小する中、海外市場の売上比率が1割にも満たないコクヨにとって、ぺんてるは『サインペンのぺんてる』のブランド力があり、約120カ国で事業を展開して海外売上比率も6割を超える魅力的な会社。敵対的TOBの背景には、ぺんてるをライバルのプラスにとられかねない危機感もあった」(エコノミスト)とされる。

 結局、コクヨがぺんてるに仕掛けた敵対的TOBは、ぺんてる経営陣とホワイトナイトとして登場したプラスの勝利に終わった。プラスはぺんてるを連結子会社とし、取得した株式は長期保有する意向だ。メガバンク幹部は「コクヨとぺんてるの企業文化は決定的に違った」ともいう。資本の論理では解せないM&Aの難しさを浮き彫りにした顛末といえよう。

〝森保ノート〟のように、コクヨは海外で戦える文房具メーカーとして脱皮するための戦略が求められている。キャンパスノートにコクヨはどんな戦略を描くのだろうか。

(森岡英樹)

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