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2023年1月 1日号
社会 入管施設暴行問題の「被害者」 クルド人男性の痛切な〝叫び〟
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 2022年11月11日。東京地裁の開廷前。自分に暴行を加えた人物A氏が数メートル先の被告席にいる。途端に原告のトルコ国籍クルド人のデニズさんは顔を伏せた。まぶたがけいれんし、顔は紅潮し、涙がにじみ、ハー、ハーと呼吸が乱れる。日本人妻のHさんが「過呼吸になる......」と背中をなでた。フラッシュバックを起こしたのだ。

 デニズさんはトルコでの迫害を逃れ、日本で難民申請をしている。だが在留資格がないため、16年6月に出入国在留管理庁の東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容された。そこでは、いつ仮放免(一時的に収容を解く措置)されるかは一切知らされない。このため、多くの被収容者が精神状態を乱し、睡眠薬や精神安定剤を処方されていた。

 19年1月19日の深夜。2年7カ月も収容されたデニズさんは、眠れないため職員に精神安定剤を求めた。だが、薬は与えられず、デニズさんがなおも薬を求めると「大声を出した」として複数の職員に床に組み伏せられ、次いで入国警備官A氏が後ろ手に手錠をかけたまま持ち上げ、「痛いかあ!」と喉の痛点を執拗(しつよう)に押す暴力を加えた。さらに被収容者が「スペシャル・ルーム」として恐れる、トイレの穴しかない「保護室」に数日間隔離された。

 デニズさんはこの処分に納得できず、同年8月に国家賠償請求訴訟を起こした。

 11月11日の法廷ではA氏が証人尋問を受けた。A氏は制圧行為を認めたが、「本人が激しく抵抗したので沈静化のための措置。手錠をしたのは暴力を振るわれるから」と正当性を強調。だが四肢を制圧されての抵抗や暴力はあり得るのか。これを原告側弁護士が問うと、A氏は「四肢に力が入っていた。抵抗と思った」と苦しい回答をした。

 だが、2人目の証人の看守責任者は「制圧には不必要な痛みを与えないよう指導している。後ろ手錠の両腕を上げ、喉の痛点を押す行為は不必要」と明言した。とはいえ、「A氏は制圧方法を応用したのだと思う」とA氏をかばった。

 3週間後の12月1日の法廷ではデニズさんが証言台に立った。やはりフラッシュバックが起き、涙がにじみ、頭痛に苦しみながらも「暴行の後は喉の痛みで3日間食事に苦労し、両肩は今も痛い」と訴えた。

 傍聴席からため息が漏れたのは、被告側弁護士が「深夜の大声が周りの迷惑と思わなかったか?」と、大声にこそ責任があると何度も問い詰めたことだ。さすがにこれには、裁判長が「薬がもらえず大声を出したのは事実。その質問では審理が深まらない」とくぎを刺すほどだった。

 デニズさんはこう訴えた。

「私たちは生きるため日本に来たのに、入管でいじめられ死ぬ人もいる。それこそが罪に問われない。この裁判は私のためでなく、みんなのために起こしました」

 入管は今回の制圧は「行き過ぎではあるが、罪に問われるものではない」との構えだ。裁判は1月26日に結審する。入管の被収容者への処遇は改まるだろうか。

(樫田秀樹)

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