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2022年12月11日号
地方 エレベーター不設置は「差別」 「木造」名古屋城に日弁連苦言
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 女性アイドルグループと写真撮影した際のポーズが卑わいだと批判されるなど、相も変わらず人騒がせな名古屋市の河村たかし市長。その「看板政策」が名古屋城天守閣の木造復元だ。

 当初は、戦後再建された鉄骨鉄筋コンクリート造の現天守閣の耐震強度が足りないからと「東京五輪開催の2020年に間に合わせる」との建て替え目標を掲げたものの迷走を重ね、天守閣の解体、復元に必要な文化庁の許可も得られていない。

 現在、来年3月の文化庁提出を目指し木造天守閣の整備基本計画を策定中だが、その根幹を揺るがすような要望書が10月24日、日本弁護士連合会から河村市長に提出された。要望書曰(いわ)く「再建する天守閣には、最上階までのエレベーターを設置するよう要望する」。

 話は4年前に遡(さかのぼ)る。「史実に忠実な復元」にこだわる河村市長が木造天守閣にエレベーターを設置しない方針を示したことに障害者らが反発、抗議のデモやハンガーストライキが湧き起こった。一方で「わがままだ」と彼らを非難する心ない声がネットなどに書き込まれる事態に。障害者が中心となって結成した市民団体は19年1月、日弁連に人権救済を申し立てた。それに応えたのが今回の要望書だ。

 要望書は「あえてエレベーターを設置しないことは、障がいのある人が平等に公共施設を利用し、天守閣を観覧したり、眺望を享受したりすることを差別されない権利・利益を侵害している」とし、憲法や障害者基本法、障害者差別解消法に違反すると指弾した。

 市は今年4月から、昇降の「新技術」を公募している。エレベーターを否定してはいないものの、主な条件は「柱、梁(はり)を傷めない」「少なくとも1階に昇ることを必須とし、可能な限り上層階まで昇ることができる」。障害者団体から「最上階まで昇れることを条件にすべき」との意見が出たが、採用されなかった。12月には最優秀者を選定するという。

 日弁連の要望書が出された直後の11月2日、木造天守閣の整備基本計画を策定する有識者会議「天守閣部会」が開かれたが、要望書には一切触れなかった。会合後、市名古屋城総合事務所の上田剛所長に聞いた。

―日弁連から要望があった。

「非常に重要な問題提起だと思っている」

―昇降技術の最優秀者選定から基本計画策定まで(3カ月と)短期間だ。

「頑張っていきます」

―バリアフリーの問題でちゃんとした対応を取らないと、名古屋市の恥では。

「おっしゃる通り。木造復元にあたり、人権侵害にならないようしっかり配慮していくことは当然必要だ」

 耐震強度不足を理由に天守閣を立ち入り禁止にして4年半。8月には名古屋商工会議所の山本亜土会頭(当時)が「あれだけのお城が何も使えないのは異常事態だ」と発言。「市長が断片的に説明することが『眉唾もんだな』と誰もが思っている」と苦言を呈した。

「河村城」がどこへ向かうのか。まずは12月の選考結果に注目だ。

(井澤宏明)

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