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2022年11月20日号
金融 「貯蓄から投資へ」の起爆剤? 投資情報「有償化」で探る活路
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 日本の個人の金融資産2000兆円。その多くは超安全資産である預貯金に滞留して動かない。

 その岩盤を動かし、世の中にリスクマネー(リスクを辞さない投資資金)を供給することが、岸田文雄首相が提唱する「新しい資本主義」だ。そのリスクマネーはスタートアップ(新興企業)などを起こすシードマネー(創業資金)となり、経済成長を促すという好循環シナリオが描かれている。

 しかし、「貯蓄から投資へ」のスローガンの下、これまでも各種の施策が講じられてきたが、2000兆円の岩盤は強固になるばかり。預貯金偏重は変わらない。岸田政権がその打破の第1弾として繰り出したのは、時限措置である少額投資非課税制度(NISA)の恒久化だ。

 NISAは2014年から導入されたが、「これまでの実績は必ずしも芳しいものではない。口座数は今年3月末で約1700万にまで拡大したが、累積買い付け額は27兆円程度にとどまる。日本の個人金融資産の額を考えれば、『力不足』と言わざるを得ない」(メガバンク幹部)という。最大のネックとなっているのはNISAが時限措置であり、非課税期間が限られていること。この非課税期間を恒久化して投資へ振り向けようというものだ。

 そして、「貯蓄から投資へ」のテコ入れ第2弾として準備しているのが、投資情報の有償化だ。「証券会社や銀行グループは金融商品の勧誘・販売に際し、付随する情報を提供(助言)していますが、運用会社など投資助言業者が有償なのに対し、証券会社は無償です。これを有償に統一しようというのが改正の骨子で、金融審議会の市場制度ワーキング・グループで検討が進められています」(同)というのだ。早ければ来年の通常国会に改正案が提出される見通しだ。

 一見すると、投資家が損をするような改正だ。だが、「これまで証券会社は販売手数料で収益を得ているので、情報提供は無料でいいという判断だったのです。しかし、インターネット取引の普及に伴って販売手数料が大幅に低下しています。そこで収益を確保するために『情報提供を有料化したい』というわけです。そうやって経営が安定化しないと、顧客に有用な情報提供もできません」(大手証券幹部)という。

 投資で効率的な収益を得るためには、役立つ情報提供は不可欠だ。証券会社や銀行グループも「資産運用コンサルティング」に力を入れている。そして、今まで無料だったものを有料にするとなれば、客の側にしてみれば一大事であり、これまで以上に提供する側には、情報の質の向上が問われることは言うまでもない。

 また、情報提供の有償化と同時に、証券会社に証券担保ローンを含む金銭や有価証券の貸し付けが認められる見通しだという。マネーが預貯金に滞留する一因には、将来に不安があるからため込んでしまうという声も多い。岸田政権には将来不安の軽減も求められるが、果たして岩盤は溶解となるか。

(森岡英樹)

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