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2022年11月 6日号
金融 「ツジトミ」が突如全店舗閉店 電子マネーの「行方」が問題に
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 京都、大阪で安値スーパーを展開する「ツジトミ」(本社・京都府八幡市)が10月1日、前触れもなく突然閉店し波紋を広げている。地元密着スーパーとして約40年の歴史を持つだけに地元民は驚きを隠せないが、問題はそれだけでない。「ツジトミはあらかじめチャージして使える電子マネーカード(ツジトミカード)を発行しており、数千円から1万円程度の残高を持つ顧客が多数いる。それが返ってくるのかが問題となっているのです」(大手信用情報機関の関係者)というのだ。

 ツジトミは京都・大阪で4店舗を展開しており、創業者である辻冨治氏が会長、その息子である辻浩一氏が社長を務めている。本店だった京都府八幡市の店舗は自宅も兼ねていた。だが、昨年8月にオープンした京田辺店(同京田辺市)では、「総菜なども全てそのまま残され、電気もつけられた状態で、まさに夜逃げ同然だった」(同)という。24人の従業員、145人のパート・アルバイトにとっても倒産は青天の霹靂(へきれき)だったようだ。店舗には「今後、京都地裁に対し、破産手続き開始の申し立てを行う予定」などと記した代理人弁護士による文書も張り出された。

 ツジトミは1980年1月、冨治氏が食品小売業を個人創業したのを起源とし、82年3月に法人化した。食品スーパー「ツジトミ」の運営を主業務とし、一時は八幡本店のほか、京田辺店、京都市伏見区の淀店、大阪府交野市の交野店、同茨木市のサニータウン店など、京都・大阪府下中心に複数店舗を展開していた。

「外部専門業者に売り場を任せるのではなく、食肉や鮮魚、塩干物なども自社で運営する形式で、地元密着の食品スーパーとして近隣住民の利用者を中心に確保し、2012年12月期決算には売上高約38億円を計上していた」(同)という。

 だが、浩一氏が社長を引き継いだ直後の17年に地場有力スーパーである「マツモト」が、ツジトミの基幹店である「八幡本店」がある八幡市に隣接する大阪府枚方市に「くずは北店」をオープン。府は異なるが、基幹店から約3㌔という距離にライバル店が誕生した影響を受け、赤字に転落した。19年9月には八幡本店を閉店、採算性が低いこともあり、20年12月期まで4期連続の赤字を計上していた。

 その後、新型コロナウイルスの感染拡大による家食需要から売り上げは一時的に回復したこともあり、京田辺店をオープンしたが、これが裏目に出る。コロナ禍の家食需要が思うほど伸びず、赤字が続き、突然の倒産となった。負債総額は数億円と見込まれるが、問題視されている電子マネーが顧客に戻ることはないだろう。

 ツジトミのメインバンクは京都信用金庫と日本政策金融公庫で、この両社は本店・自宅などの物件に根抵当を設定している。ただ、連鎖倒産はさけられそうだ。「ツジトミは現金決済が原則で、納入業者などへの影響は限られる」(同)とされる。地元密着型スーパーの苦しい現状を象徴するような倒産劇だ。

(森岡英樹)

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