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2022年10月30日号
地方 ビートルズの「警視庁映像」を情報公開「権威」が請求した訳
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 ビートルズが1966年に日本武道館で来日公演を行った際に警視庁が撮影し、「幻の映像」としてファンの間で知られてきた16㍉フィルムが半世紀余りを経て公開された。きっかけはビートルズファンの弁護士による情報公開請求だった。

 この弁護士はNPO法人「情報公開市民センター」理事長の新海聡さん(61)(愛知県岡崎市)。「全国市民オンブズマン連絡会議」の事務局長を、現在まで30年近く務めており、情報公開請求により「官官接待」などの不正を市民と一緒に明らかにしてきた。

 小学生でビートルズと出会い、中学時代にはお小遣いやお年玉をつぎ込み、LPレコードを全部そろえた。大人になっても熱は冷めず、ロンドンまでレコードを買いに出かけるほど。公演当時は小学校に入る前だったが、「床屋に行かないと、ビートルズになるよ」と親たちが「悪の権化」のように言ったのを覚えている。

「幻の映像」が残っていることが新聞で報じられたのは2014年1月だった。「まさか個人情報で非公開にすることはないだろう」。同センターは翌月、警視庁に情報公開請求したが結果は「全面非開示」。映像が公開されることにより「特定の個人が識別」でき、「警備手法等が明らかになる」ことが、東京都条例の「非開示情報」に当たると判断された。翌15年に再挑戦すると、警視庁はメンバー以外の「顔」を非開示にする決定を出した。新海さんたちは「当時のティーンエージャーも今や70歳。個人を識別することはできない」と、全面公開を求めて東京地裁に提訴した。

 最高裁まで争ったが18年10月に敗訴が確定した。それから4年、今年7月にDVDで送られてきたのは「ザ・ビートルズ来日に伴う警備」と題された35分40秒の音のないモノクロ映像だった。観客だけでなく、ビートルズを発掘したマネジャーの故ブライアン・エプスタイン、当時の警察官や国家公安委員長にまでモザイクがかけられていた。

 一方、「亡国ビートルズ排撃」と書かれた街宣車が突っ込んでくる場面や、涙を拭いながら帰宅する女性らの姿を収録。新海さんは、武道館のステージの脇に警察官がずらっと並ぶ光景に「あれだけ警察のいる中で演奏するビートルズはやっぱりプロ」と改めて感心する。ともに「個人情報とは何だ、ということを考える資料として、ぜひご覧いただきたい」と呼びかける。

『ビートルズ来日学』などの著書がある音楽評論家の宮永正隆さん(62)は、6月30日〜7月2日の計5回の公演のうち、これまで映像がなかった最終公演が写っていたことを評価。「ビートルズに関する映像は、もう出尽くしたと世界が思っていたのに、こんなものがあったというのは、世界の人が共有すべき文化遺産なんです」と力説する。

 1964年の東京五輪や70年の大阪万博の記録映画や映像にモザイクが使われていないことや、ドイツ警察が撮影したビートルズ映像が市販されていることを挙げ、「世界の文化遺産としての価値を小池百合子知事には分かってほしい」と、「全面公開」を切望する。

 映像や新海さんの解説はオンブズマン連絡会議のYouTube公式チャンネルで見られる。

(井澤宏明)

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