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2022年5月 8日号
展覧 東京・町屋の「ぬりえ美術館」 20周年の節目経て今秋閉館へ
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「このぬりえ美術館は8月で20周年。でも、思い切って10月いっぱいで閉館することにしました」というのは同館館長の金子マサさん。

「きいちのぬりえ」で知られる蔦谷(つたや)喜一のぬりえを中心に約7700点を所蔵。喜一は愛くるしい少女の姿をさまざまに描いたぬりえの第一人者で、金子さんは姪(めい)にあたる。

「母の看病のため2000年に化粧品会社を辞めました。30代は仕事で海外へ出るたび日本文化の魅力を問われ、ぬりえも日本独特の文化なのだと発見。退職後は美術館の形で、きいちのぬりえを残したい、昭和の時代の温かさを伝えたいと思い至りました」と開館前を振り返る。

 ぬりえは昭和40年ごろまで駄菓子屋などでよく見かけた庶民的な少女向け玩具だが、きいちの絵は小さなアートでもあった。02年8月3日東京の下町・荒川区町屋に開館。土日祝日のみオープンし、翌月にはNHKテレビの生放送で紹介された。来館者の声は「なつかしい」「かわいい」「ありがとう」に集約される。中には画家や漫画家、デザイナーになった人もいた。

 05年からは『ぬりえ文化』など研究書を出版、06年からはニューヨークやパリなどでぬりえ展を5回開き、地元では12年間ぬりえコンテストも催してきた。

「53歳で開館して、20年は大きな区切りになると思ってきました。加えて、コロナ禍で休館もあり、来館者が減ったのはつらかったし、企画を考える張り合いがありませんでした」。後継者については「赤字の個人美術館なので継承は考えず、静かにフェードアウトするつもりです」と金子さんは心境を語る。

 しかし、ぬりえについては、高齢者の脳の活性化に役立つと医師らに発見され、大人がぬりえをするようになった動きに着目している。「〝大人のぬりえ〟は日本が最先端。全く新しいぬりえが生まれ、誰でも楽しめる素材として広まっていくといいですね」と思いをはせる。

(南條廣介)

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