サンデー毎日

政治・社会
News Navi
2022年4月17日号
訃報 知的好奇心と行動力に溢れた大学通信・安田賢治さん死去
loading...

 大学教育のアナリストとして多数の連載を持ち、本誌の入試や教育記事でもおなじみだった教育情報通信社「大学通信」常務取締役の安田賢治さんが3月13日、病気のため死去した。65歳だった。

 本誌には忘れられない思い出がある。2020年10月18日号を巡ってだった。本誌連載「五木寛之のボケない名言」で、作家の遠藤周作が左手でスマホのようなものをいじる写真が掲載された。遠藤は1996年に他界している。

 そこで編集部へ電話をよこしたのが安田さんだった。「遠藤の時代にスマホはなかったはず。左手に持っているのは何?」。改めて確認するともっともな疑問だった。

 調べてみると、写真は73年6月10日号の『毎日グラフ』に掲載されたものだ。持っていたのはキリスト教徒の弾圧に使われた踏み絵。恐らく親指でレリーフ状の表面の凹凸を確認していたのだろう。現代の我々がスマホをいじる仕草と驚くほど似ていた。

 安田さんには疑問を一読者として投稿していただき、10月25日号の「読者から」で回答とともに掲載した。そして、安田さんはこう振り返った。

「遠藤も私も灘の出身だからね。私が高校時代、遠藤先生に『OBだから文化祭で講演してくれ』と頼んだら、本当に来てくれたんだよ」

 灘とは2022年度入試(22年4月入学)でも、東大合格者高校別ランキングで3位に入った兵庫の灘中・高だ。安田さんはその後、早稲田大政治経済学部に進んで大学通信へ入り、情報調査・編集部門を長年統括。小・中・高校入試から大学入試、就職まで幅広く情報発信し、国内屈指の教育ジャーナリストともいえる存在だった。

 遠藤を巡るやりとりを通じ、安田さんの歯切れの良い解説は、素朴な疑問を放っておかない知的好奇心と、何事も挑んでみる行動力によって培われたのだと実感した。もっと〝安田節〟を聞かせてほしかった。

(飯山太郎)

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム